曲を作ったら必要になり、しかも、楽曲の仕上がりに大きな影響を与えるミキシング作業。DAWソフトを使った曲作りの面白い部分ですが、それと同時に、頭を悩ませるテーマでもあるでしょう。今回はそんなミキシングに焦点を当てて、作業中に起こりがちな問題や悩みをQ&A形式で紹介。解決のためのヒントをまとめてみました。

本記事は、「基礎編(本記事)」「ダイナミクス/EQ編」「空間/機材編」の3部構成になっています。


基礎編

まずはミキシングの基本的な考え方や作業に慣れないうちに起こりがちなトラブルについて見ていきましょう。

Q1.ミックスを始める場合、どこから手を付ければ良いのですか

ミキシング作業をスタートする際、どこから手を付けるかは人それぞれだと思います。ドラムのキックやベースといった低域楽器から手を付ける人もいれば、曲の主役であるボーカルから処理をしていく…という風にケース・バイ・ケースで、特に決まりがあるわけではありません。

ただ、1つ言えるのはミキシングを始める前に、ある程度の完成型を想像しておくことで、円滑に作業が行えるようになります。事前に完成型のイメージがあれば、あとはそのイメージに近づけていくだけです。この「イメージに近づける作業」こそがミキシングの難しい部分なのですが、最初に目的をハッキリとしておくことで、作業の効率がグッと上がるはずです。

イメージに近い既成曲をDAWソフトに取り込んでおいて、自分のミックスと聴き比べながら作業をするのも良いでしょう。音を聴くだけであれば、iTunesなどの他のプレイヤーでもOKですが、ソフトによって微妙に音が変わってしまうことから、ここは同じ音量感で聴くことができる、DAWソフトにインポートするのがオススメです。マスタリング済みの既成曲はミキシング中の曲に比べると、圧倒的に音量が大きいはずなので、同じ音量感になるようにフェーダーで下げておきましょう。

Q2.作業していくうちに、どんどん収拾が付かなくなってしまいます。何か良い方法はありませんか

ミックスは決まった大きさの箱の中に周波数や定位、奥行きといった要素で各楽器をバランス良く収納していく作業です。そのため、ただ闇雲に音を配置しただけでは、綺麗に収める…つまり、バランスの良いミックスを作るのは難しいでしょう。

そこで大切なのが、曲の主役を決めて、基準にすることです。例えば、歌モノの楽曲の場合は「ボーカル」が主役になるケースが多いと思いますが、主役であるボーカルに対して、ギターがどのくらいの音量で、どんな風に入っているのか。次に、ギターに対して、ベースはどうなのか…という風に考えていくと、迷いにくいと思います。楽器のバランスを同時に取ろうとすると大変ですが、「この楽器は、あの楽器と比べて、どうするのか」と、2つの楽器の位置関係を考えるようにすると、比較的簡単にバランスが取れるはずです。

慣れないうちは最初からエフェクトをインサートしていくのではなく、ボリュームやパンで全体の音量バランスを決めてから、必要な分だけエフェクト処理をしていく方が良い結果につながるでしょう。「ミキシング」というと、プラグイン・エフェクトを使って音を加工していく…というイメージが強いと思いますが、ミキシングの最大の目的は「各トラックを最も聴きやすいバランスに整えること」のはずです。

エフェクトをかけていくのは楽しい作業であり、プラグインはDAWソフトでのミキシングの「花形」とも言える部分ですが、使用するエフェクトが増えれば増えるほど、調節しなくてはいけないパラメーターも増えていくので、「あっちを立てれば、こっちが立たず…」という状態になり、ミキシングの難易度はどんどん上がっていきます。

ハードウェアとは違って、マシン・パワーが許す限り、無限にエフェクト処理ができるのがソフトの利点ですが、それだけに「本当は不要なところにもエフェクトを使ってしまう…」ということが起こり得るのです。例えば、「とりあえずエフェクトをインサートする」「全チャンネルにEQやコンプレッサーがかけられていないと、何となく不安…」という人はいませんか。本当に必要なのであれば問題ないのですが、明確な目的がなく、何となく使うエフェクトは、かえってミックスを複雑にしてしまいます。作業をしていて、どうしたら良いのかがわからなくなってしまった場合は、一度、エフェクトをバイパスしてみると意外な解決策が見つかるかもしれません。

Q3.「ミックスをする際はステムを作ると良い」と耳にしました。具体的には、どうすれば良いのですか

「ステム」の基本的な考え方は昔からあり、無意識に行っている人もいると思います。簡単に言うと、各トラックの出力を直接マスターに送るのではなく、同じカテゴリーの楽器同士をバス・トラックでまとめてからマスターに送る方法です。

一番わかりやすいのはドラムです。ドラムはキックやスネア、ハイハット…といった各トラックを一度、「ドラム」というバスにまとめてから処理を行います。それと同様にコーラスやギター、上モノ…といった楽器の種類や役割ごとにバスにまとめてミックスを行うのが、ステム・ミックスと呼ばれる手法です。では、ステムを組むメリットはどこにあるのでしょうか。

▲楽器のタイプごとにバスにまとめるステム・ミックスの手法は音作りだけでなく、作業効率の面でもメリットがあります

まず1つに、作業がスマートに行える点です。例えば、「ドラムの各パーツの音量バランスを保ったまま、ドラム全体の音量を下げたい」という場合にステムを組んでおけば、バスのフェーダーを下げるだけでOK。もちろん各トラックのフェーダーを操作すれば、トラック単位で微調節することもできるので、必要に応じて使い分けることが可能です。同時に「バスを組む」ということはプロジェクトの整理にもつながるので、トラックの構成を把握するのにも役立ちます。

バスでまとめることで、複数のトラックに同じ設定のエフェクトを適用することができる、というのも大きなメリットです。もちろん各トラックでしか行えない処理もありますが、ドラム全体にコンプレッサーをかけて、各キットごとの質感を揃えたりと、ステムでしかできない音作りもあるのです。複数のトラックに同じエフェクトをかけたい場合もステムにまとめることで、使うエフェクトの数を減らせる=マシン・パワーの節約にもつながるなど、良いことずくめと言えます。

なお、各ステムをそのままマスター・バスに送る必要はありません。例えば、各楽器ごとのステムから、さらにオケとボーカルという2つのステムにまとめておけば、曲の大きな柱となるボーカルとオケのバランスが調節しやすくなるはずです。また、最近はマスタリングをステムで行うケースも増えてきています。こうすることで曲間の質感調節の自由度が増すほか、マスター・エフェクトをかけた時にサウンドのバランスが変わって聴こえたとしても、柔軟に対応することができます。

Q4.AUXセンドにはプリとポストがありますが、どのように使い分ければ良いのですか

まずはプリ・フェーダーとポスト・フェーダーの働きから見ていきましょう。プリは「前」という意味で、ボリューム・フェーダーを通る前の音をAUXバスにセンドする方法です。一方のポストは「後」という意味なので、フェーダーを通った後の音を送り出す、ということになります。

この2つをどのように使い分けるのか、具体例を紹介します。まず、多くのDAWソフトのミキサーにある「AUXセンド」はデフォルトで「ポスト・フェーダー」に設定されているはずです。これはリバーブなどの空間系エフェクトをセンドで使うのに向いています。フェーダーを上下させると、それに連動してAUXに送られる音量が変わるので、楽器の音量に比例したリバーブをかけたい場合に便利です。

一方のプリ・フェーダーでは、フェーダーを上下させてもAUXに送られる音量は変わりません。つまり、センドの量を変えない限り、たとえフェーダーを「0」にしても一定の音がAUXバスに送られ続けます。わかりやすい例が「演奏者へのモニター送り」です。フェーダー値に関係ない音量を個別に設定できるので、コントロール・ルームに流れるミックスとはまったく異なる音量バランスの音を演奏者に送ることが可能です。

ミックスではポスト・フェーダーを使うケースが多いと思いますが、プリ・フェーダーを使うことで少し変わった効果を作ることもできます。例えば、リバーブです。通常のリバーブとして使う場合はポスト・フェーダーの方が使いやすいと思いますが、音像自体をボヤかしたり、奧へ持っていきたい場合はプリ・フェーダーを使うのも有効と言えます。また、コンプレッサーをサイド・チェインでかける場合にトリガーとなる「ソース」を鳴らしたくない場合もプリ・フェーダーでかけておけば、トリガー・ソースのフェーダーが「-∞」でもダッキングの効果を再現できます。

Q5.音源のエフェクトを使うのとDAW側でエフェクトをかけるのはどちらが良いのですか

マルチ音源やドラム音源を中心に、音源側に豊富なエフェクトやミキサー機能が付いている製品も多いですが、基本的には「そのエフェクトを使いたいか」で判断すると良いでしょう。特にミキシングの微調節や補正ではなく、アレンジや音色作りの一環としてエフェクトを使う場合には顕著です。

例えば、同じコンプレッサーでも音源に付いているものとDAWのものとでは質感がまったく異なるはずなので、「どちらが良いのか」というよりも「どちらの音が好みなのか」で判断することになります。一方、他の音源や楽器と質感を揃えたい場合や、より細かく追い込みたい場合は音源側のエフェクトをバイパスし、DAWソフト上でかけた方が良い結果につながると思います。特にドラム音源などの場合は音源内で、ある程度は音色を作り込むことができるので、もし音源の中で納得できる音が作れているのであれば、必ずしもパラ・アウトしてプラグインを使って処理して…という必要はないかもしれません。

Q6.「MS」という言葉をよく耳にしますが、これは何ですか

「MS」というのは元々はステレオの録音方式の1つです。通常のステレオ方式は音を「L」と「R」に分けて扱いますが、MS方式は「Mid(中央)」と「Side(左右)」に分けて録音する方式です。この魅力は、何と言っても録音後の「自由度の高さ」にあります。LRステレオの場合はパン(定位)が移動するだけですが、MSの場合はサイドの音量を上げ下げすることで、ステレオの幅を調節することができます。なお、サイドを「0」にしてしまえば、完全にモノラル化ができるのも特徴です。

ステレオとMSは、そのままでは互換性がないので、変換するデコーダーが必要になりますが、MSエンコーダー/デコーダー・プラグインや1台でMS処理に対応したプラグインの登場で、ミキシングやマスタリングでも効果的な手法として多用されています。MSで処理するメリットは、何と言っても定位や奥行きをコントロールしやすく、同時に音圧を稼ぎやすいというものでしょう。楽曲を作っていくと、主要な楽器はセンターに集まっていく傾向にあるので、MS処理を行うことでステレオでは不可能な音作りが可能です。

例えば、EQの場合は低域やボーカルなどの重要なパートが入った帯域のサイド成分をカットすれば、明瞭なハッキリとしたサウンドが作れるほか、反対に「左右に振ったギターの特定の帯域だけをブーストしたい…」といった使い方もできます。コンプレッサーも同様で、通常はサイドよりもセンターの方が音が大きいので、センターだけをコンプレッサーで叩くようにすれば、通常のステレオよりもレベルを稼げるようになります。

前述の通り、MSに対応したプラグインも増えていますが、お気に入りのプラグインがMSに対応していない場合はトラックにMSエンコーダー → 使いたいプラグイン → MSデコーダーの順でインサートすることで、MS処理が行えます。

▲Fairchild 670をモデリングし、MS処理にも対応するコンプレッサー・プラグイン、Waves / PuigChild 670


次回「ダイナミクス/EQ編」は8月12日(土)12:00の公開です。