曲を作ったら必要になり、しかも、楽曲の仕上がりに大きな影響を与えるミキシング作業。DAWソフトを使った曲作りの面白い部分ですが、それと同時に、頭を悩ませるテーマでもあるでしょう。今回はそんなミキシングに焦点を当てて、作業中に起こりがちな問題や悩みをQ&A形式で紹介。解決のためのヒントをまとめてみました。

本記事は、「基礎編」「ダイナミクス/EQ編(本記事)」「空間/機材編」の3部構成になっています。


ダイナミクス編

ミキシング成功のポイントであり、同時に「使い方が難しい」と言われるコンプレッサーを中心に、ダイナミクス系エフェクトについて見ていきましょう。

Q7.「ミックスはコンプレッサーが大切」と言われていますが、かけても音の変化がわかりません。そもそもどんな働きのエフェクトなんですか

COMPRESSORは「圧縮」という意味を持つエフェクターで、その名の通り、音を圧縮します。どこを圧縮するのかと言うと、音の大きな部分です。例えば、ボーカルを思い浮かべてみてください。どんなに上手なボーカリストであっても、どうしてもメロディーや歌詞によっては音量にムラが出てしまいます。その際、コンプレッサーで音の大きな部分を潰すことで小さな音と大きな音の音量差を少なくし、聴きやすいサウンドに仕上げることができます。コンプレッサーに代表される「ダイナミクス系エフェクト」は言うなれば、時間方向のボリューム操作というわけです。

ミキシングでコンプレッサーが多用されるのは、この「音量差をなくす」という作業が非常に重要になるからです。ミキシング作業は各楽器の音をバランス良く聴こえるように調節する作業ですが、そもそも無尽蔵に音を詰め込めるわけではありません。よく「箱の中に音を詰めるイメージ」と言われますが、箱に入りきらない音はクリップして歪んでしまうわけです。限りのある箱の中に効率的に音を詰めていくには、コンプレッサーを使って1つ1つの音をコンパクトにすることがポイントになります。

「コンプレッサーで音圧を稼ぐ」という表現を聞いたことがある人も多いと思いますが、これは音の大きな部分を叩いて、小さな部分との差を少なくする(この差のことを「ダイナミック・レンジ」と呼びます)ことで、全体的に音量を上げる「隙間」が生まれるためです。つまり、コンプレッサーをかけたから音を大きくできるのではなく、コンプレッサーをかけたことで音を大きくする余地が生まれた、というのが正確でしょう。

コンプレッサーはこのような補正用途だけでなく、積極的に音作りにも活用できるので、コンプレッサーの使い方を覚えれば、音作りの幅が飛躍的に向上します。

Q8.コンプレッサーのパラメーターが多くて、よくわかりません。どこから調節すれば良いのですか

コンプレッサーはパラメーターが多く、効果もわかりにくいので、「どこから調節すれば良いのか…」というのはミキシングを始めたばかりの人の多くがつまずくポイントです。まずは一般的なコンプレッサーに付いているパラメーターの働きを見ていきましょう。

▲コンプレッサーの概念図

Threshold(スレッショルド):ここで設定した音量よりも大きな音が鳴った時にコンプレッサーが働きます。Thresholdの数値を大きくしておけば、本当に大きな音だけにコンプレッサーがかかり、反対に下げておけば、全体的に音を潰すことができます。プラグインのコンプレッサーの場合は「Threshold」の付近に入力レベル・メーターが付いていると思うので、そのメーターを参考に数値を決めていきます。

Ratio(レシオ):Thresholdよりも大きな音を「どのくらいの比率で潰すのか」を決めるのがRatioです。パラメーターは「※任意の数値:1」という表示になっていますが、これは原音を何分の1の音量まで圧縮するという「入力:出力」の比率を表しています。例えば、Ratioが「2:1」の場合は「2」入った音を「1」にして出力…つまり、1/2になるまで圧縮を行うということです。言い換えると、Ratioが「1:1」の場合には、圧縮は行われません。また、Ratioが上がっていくと、Thresholdで設定した以上の音を通さないようになります。このレシオ「∞:1」の状態がリミッターです。

Attack Time(アタック・タイム):入力された音がThresholdを超えてから、実際にコンプレッサーが圧縮動作を始めるまでの時間を設定するのが「Attack Time」です。時間を調節するパラメーターなので、単位も「msec」となります。

Attack Timeを調節すると、サウンドはどのように変化するのかを考えてみましょう。Attack Timeを最速にすると、音が入力されるのと同時に圧縮が始まるので、音のアタック成分が削られて、目立たなくなります。反対に遅めに設定すると、波形のアタックが通り過ぎてから圧縮が行われるので、アタックの部分を強調することができます。

Release Time(リリース・タイム):楽器の音は時間の経過で減衰していきますが、Threshold以下の音量まで下がった時にコンプレッサーの圧縮動作が解除されるまでの時間を設定するのが「Release Time」です。

Release Timeを短くすれば、コンプレッサーがすぐに解除されるので、抑揚がハッキリとします。反対に遅くすると、音の減衰後もしばらく圧縮が行われるので、次の音が入るまで常にコンプレッサーをかけておくような使い方ができます。

Gain(ゲイン):音を圧縮すると、当然、音量も下がってしまいます。下がった分の音量を補うのが「Gain」です。コンプレッサーによってはレベルを上げた時に、ただのボリューム調節だけでなく、そのコンプレッサー特有の「色」が付くものがあり、それを含めて「コンプレッサーの音」になっているケースもあります。

以上を踏まえた上で、改めてコンプレッサーを触ってみてください。頭で考えることも大切ですが、コンプレッサーの各パラメーターを変化させた時に「どのような変化が起きるのか」を感覚として覚えると良いでしょう。

▲コンプレッサーの設定やリダクションの量を視覚的に捉えやすいのもプラグインの魅力。動作タイプを切り替えられる場合もあります。画面はApple / Logic Pro Xの純正のコンプレッサーです

例えば、以下のような手順でドラム・ループなどにコンプレッサーをかけてみてください。

1. コンプレッサーのパラメーターを以下のように設定します。この状態では、まだコンプレッサーはかかっていないはずです。

・Threshold:最大

・Ratio:大きめ(8:1〜程度)

・Attack / Release:最速

2. Thresholdを下げて、コンプレッサーを動作させます。どんどん下げていくと、パツンパツンのサウンドになっているはず。これがコンプレッサーで圧縮したサウンドです。

3. この状態でAttackを上げていくと、徐々にアタック成分が強調されていく効果が確認できます。同様にReleaseも上げてみましょう。

4. このように極端な設定にすることで、コンプレッサーの働きをよりわかりやすく感じることができます。次に、好みの質感となるように各パラメーターを戻していきましょう。なお、マルチバンド・コンプレッサーも基本的には同じですが、各帯域に対して異なる設定のコンプレッサーをかけることで「低域だけ強めにかけて、音を絞りたい…」など、より細かな音作りが可能になります。

Q9.コンプレッサーにはモードやタイプがいくつかありますが、どんな時にどんなタイプを使えば良いのですか

プラグインのコンプレッサーでは複数の動作タイプを切り替えることで、1つのプラグインで複数のサウンド・キャラクターを作ることができる場合があります。ハードウェアをシミュレートしたプラグインを使う際も各タイプがどのような特徴を持っているのかを知っておけば、シーンに応じてベストなサウンドを使い分けることができるでしょう。主要な4つのタイプを紹介します。

FETタイプ 電解効果トランジスタを使ったタイプで、コンプレッサーの定番であるUniversal Audio(Urei)の1176などが代表格。レスポンスが良く、クリアで使い勝手の良いサウンドはボーカルはもちろん、ベースやドラムまで、どんなパートにも対応できる万能タイプと言えます。

▲Universal Audio / 1176 Classic Limiter(UADプラグイン)

VCAタイプ 現在、一般的なのが、IC回路を使ったVCAタイプです。電気的にコンプレッションを行うため、クリアなサウンドと素早いレスポンスが特徴で、SSLのBusコンプは特に有名。クセが少なく、しっかりと動作してくれるので、各チャンネルはもちろん、バス・チャンネルやマスター・チャンネルにも最適です。

▲Waves / SSL G-Master Buss Comp(SSL 4000 Collectionにバンドル)

Optoタイプ 信号の強さをLEDの光に変換し、光の強さに応じて抵抗を変化させるのがOpto(光学式)タイプで、Universal Audio(Teletronix)のLA-2Aなどが有名です。他のタイプに比べると反応速度が遅く、決して特性も良いとは言えないのですが、特有のマイルドさが光学式の持ち味。ボーカルやストリングスなどのパートで、少しクセを付けたい時に重宝します。

▲Softube / Tube-Tech CL 1B

真空管タイプ その名の通り、「可変ミュー」という特殊な回路を搭載した真空管を使ったコンプレッサーで、Fairchild 660/670や現行モデルではManleyのStereo Variable Muが有名です。ハードウェアでは安価な真空管コンプレッサーも販売されていますが、その多くは半導体を使ったタイプ。すべての回路を真空管で構築したモデルは数えるほどしかありません。真空管でしか味わえない、音楽的なサウンドが魅力です。

▲Universal Audio / Manley Variable Mu Limiter Compressor

Q10.CDのような音圧が稼げません。やはり高価なプラグインが必要ですか

高価なプラグインを使えば、音圧を稼ぎやすくはなりますが、その前にチェックすることがたくさんあります。

まず、純粋に音圧を稼ぐことだけを考えた場合にポイントになるのが、「2Mixのダイナミクスをどれだけ小さく抑えることができるか」という点です。Q7でも触れましたが、音量差がある素材では音量の大きなところでリミッターが働いてしまい、音量の小さな部分までは効果がかからない…ということになってしまいます。それを無視して、全体にかかるまでThresholdを下げていくと、元々音量が大きかった部分は音割れを起こしてしまうのです。

それを防ぐために各バス(ステム)の段階で、ある程度はダイナミクスを整えておく作業が必要になります。ただし、いくら音圧を稼ぎたいからといって各チャンネルにリミッターをインサートしたり、あまりダイナミック・レンジを狭めてしまうと、楽器の持ち味や音楽としての魅力を台無しにしてしまうことにもつながるので、やり過ぎには注意が必要です。また、1つのプラグインで音圧を大きく稼ごうとするよりも2段がけや3段がけをして、少しずつブーストした方がバランスが変わりにくいので、オススメ。使うプラグインの組み合わせによってもキャラクターを調節することができます。

それでも「レベルを突っ込めない」「メーター上の数値は大きいのに、聴感上は大きく聴こえない…」という場合は、聴こえない成分でリミッターが働いてしまっている可能性があります。例えば、超低域などは人間の耳の感度が低いので、不必要に出してしまいがちです。聴こえていない、不要な成分をカットすることで全体のレベルをもう一段階、上げられるかもしれません。そういった「聴こえない、不要な帯域の音」は各トラックの音作りの段階で、しっかりとカットしておくと良いでしょう。

Q11.トラックに音量差があり、コンプレッサーのかかりにムラが出てしまいます。どうすれば良いのですか

コンプレッサーはThresholdで設定した音量以上の音を圧縮するエフェクトです。例えば、ボーカルの「Aメロ」「サビ」などのように音量差がある場合、Aメロの音量に合わせるとサビではかかり過ぎ、反対にサビに合わせるとAメロではまったくコンプレッサーがかからない、という状態になってしまいます。

このような場合はコンプレッサーに入る前の段階で、ある程度の音量を均一化することで、コンプレッサーのかかり具合を一定に保つことができます。ボリュームの微調節というと、ボリューム・フェーダーをオートメーションさせる方法を思い浮かべるかもしれませんが、多くの場合、ボリューム・フェーダーはエフェクト処理後の音量を調節するので、このような場合は使うことはできません。

DAWのミキサーにインプット・トリムがある場合や、コンプレッサーの前段にインサートしたエフェクトのアウトプットやコンプレッサーのインプット・ゲインをオートメーションで書き込んでも良いですが、最も簡単なのは音量の小さな部分と大きな部分でトラックを分けてしまう方法です。今回の例ではボーカルを「サビ」と「サビ以外」のトラックに分けて処理することで、ボーカリストが歌ったダイナミクスを生かしたまま、音量に応じた最適な設定のコンプレッサーを当てることができます。ベストな方法はケース・バイ・ケースだと思いますので、必要に応じて、使い分けてみてください。


イコライザー編

Q12.EQのパラメーターについて教えてください

EQ(イコライザー)は周波数ごとに音量を調節するエフェクトです。特定の周波数に、ある音をブースト(増幅)したり、カット(減衰)することで音の不要な成分を目立たなくしたり、反対に楽器の良い部分を強調させる、音を目立たせるのが主な働きです。まずはEQの基本的なパラメーターや用語を見ていきましょう。

パラメトリック・イコライザー:EQは「パラメトリック・イコライザー」と「グラフィック・イコライザー」の2種類に大きく分類することができます。両者の違いはコントロールする周波数が可変式(パラメトリック)か、固定式(グラフィック)か、という点にあり、レコーディングでは自由度の高いパラメトリック・イコライザーが使われるのが一般的です。ここでもパラメトリック・イコライザーを例に紹介します。一方のグラフィック・イコライザーはギター/ベース用のコンパクト・エフェクターやPAで使われています。

バンド:各帯域のこと。例えば、5つの帯域を同時にコントロールできるEQは「5バンドEQ」と呼ばれています。

EQタイプ:EQの動作方法のこと。特定の周波数だけをブースト/カットしたい時に使われる「ピーキング・タイプ」と、ある周波数よりも上、もしくは下の帯域を全体的にブースト/カットできる「シェルビング・タイプ」に分けられます。どのような帯域に効果を与えたいのかによって、使い分けていきましょう。プラグインでは、各バンドごとにピーキングとシェルビングを切り替えられるのが一般的です。

Freq:EQでブースト/カットする周波数を表しています。ここで設定した周波数を中心に「Q」で設定した範囲にわたって効果がかかります。ハードウェアのEQをモデリングしたタイプには、あらかじめ設定された周波数から選択するものもあります。

Q:EQが効果を与える範囲を設定します。Qの値を広くすると、Freqで設定した周波数を中心に、広範囲にわたってEQの効果がかかります。反対に狭くすると、設定した周波数だけをピンポイントで処理することができます。

Gain:ブースト/カットする量を設定します。0(効果なし)を中心に、+側にするとブースト、ー側でカットとなります。

▲パラメトリック・イコライザーではピーキングとシェルビングという2つのEQカーブやQ値を調節して、好みのサウンドを作っていきます

Q13.どのあたりをEQで処理すれば良いのかがわかりません

コンプレッサーに比べるとエフェクトの効果はわかりやすいものの、いざ使うとなると、どんな周波数にEQで処理をすれば良いのか、迷ってしまうもの。EQのポイントは楽器によっても、音色によってもまったく異なるので、「〜の楽器は○XHzを調節すればOK!」というような方程式を当てはめることはできません。難しいと思いがちなのはEQのポイントを探すことですが、これは簡単な手順で見つけることができます。

1. まずは音を聴いて、その音をどう処理したいのかをイメージしてみましょう。この段階では「もうちょっとスッキリさせたいな〜」とか「オケに埋もれないようにしたいな〜」といったラフなイメージで大丈夫です。

2. 適当なバンド(まずはミッド・バンドがオススメ)のQを一番狭く設定し、適当にブーストします。これで、特定の帯域にピンポイントで極端なEQがかかるようになりました。

3. 音を再生させながら、Freqを上下に動かしていきます。周波数を動かしていくと耳触りに聴こえたり、音のイメージが大きく変わるポイントがいくつか見つかると思います。そこがEQのポイントです。ポイントが見つかったら、GainとQを戻しながら、良い感じに聴こえるように調節しましょう。

▲Qを狭めた状態で、周波数を変化させることで効果がデフォルメされ、EQポイントを簡単に見つけることができます

Q14.「EQはカットで使う方が良い」と聞きました。どうしてですか

EQはブースト/カットができるのに、どうしてカットを優先させるのかというと、カットした方が無理がないからです。人間の心理としてはブーストしたくなると思いますが、いくらEQでブーストしても、原則として元の音に入っていない要素を強調することはできません。元にないものを無理矢理にでも足すと、どうしても無理が出てしまうのは感覚としてイメージが沸くと思います。

「特定の帯域を目立たせる」ということは、邪魔をしている他の帯域を下げるのと同義です。欲しい帯域を盛るのではなく、要らない帯域をカットしていくことで、出したい要素を削り出すようなイメージで使い始めると、スッキリとしたミックスに仕上げやすいでしょう。もちろん「ブーストしてはダメ」ということではありませんが、ブーストから始めてしまうと「あっちを立てれば、こっちが立たず…」という状態に陥りやすいので、まずはカットする方向で考えてみてください。

Q15.EQプラグインを使い分けるメリットは何ですか

特定の帯域をブースト/カットする…そんなEQの働きだけを考えると、わざわざ複数のEQプラグインを使い分ける必要はないようにも思えます。しかし、実際にはブースト/カットした時のEQカーブやパラメーターを変化させた時の挙動、プラグイン自体が持っているカラーなど、たとえまったく同じ数値に設定しても、プラグインによって仕上がりのサウンドは大きく変わってくるのです。「周波数をピンポイントで調節できる補正用」や「音楽的なサウンドに仕上がる音作り用」という風に手持ちのプラグインを使い分けると、ミックスがもっと楽しくなります。


次回「空間/機材編」は8月19日(土)12:00の公開です。