曲を作ったら必要になり、しかも、楽曲の仕上がりに大きな影響を与えるミキシング作業。DAWソフトを使った曲作りの面白い部分ですが、それと同時に、頭を悩ませるテーマでもあるでしょう。今回はそんなミキシングに焦点を当てて、作業中に起こりがちな問題や悩みをQ&A形式で紹介。解決のためのヒントをまとめてみました。

本記事は、「基礎編」「ダイナミクス/EQ編」「空間/機材編(本記事)」の3部構成になっています。


空間編

ミキシングで仕上がりのクオリティーに大きな影響を与えるのが、奥行きの表現です。立体的なサウンドを作れるかどうかは「プロっぽさ」にもつながります。リバーブやディレイといった空間系のエフェクトについて見ていきましょう。

Q16.リバーブって、どのパラメーターを調節すれば良いのですか

残響を与えて、空間を演出するリバーブ。EQやコンプレッサーとは異なり、プリセットをそのまま活用できるケースも多いですが、見慣れないパラメーターもあると思います。ここでは基本的なパラメーターを解説します。

Reverb Type:基本となる残響の種類やサウンド・キャラクターを選択します。例えば、コンサート・ホールのような大きな環境を再現した「ホール」や小規模な部屋の「ルーム」。往年のエコー・マシンの名機、EMT-140に代表される「プレート」やギター・アンプでもお馴染みの「スプリング」など、その種類は様々。それぞれ空間の広さやサウンドに特徴があるので、イメージに合うものを選びます。

Reverb Time:リバーブ音が鳴っている長さをコントロールします。Typeで選んだ部屋の広さを微調節するようなイメージです。

Pre Delay:原音(ドライ音)が鳴ってからリバーブの残響成分が再生されるまでの時間差を設定します。この時間差を大きくすることで、広い部屋で鳴っているような印象を与えることができます。Reverb Timeとの兼ね合いで、同じReverb Typeでも異なる響きを作ることができます。

Mix原音とエフェクト音のバランスを調節します。トラックにインサートする場合はMix量でかかり具合を調節します。センド/リターンで使う場合は100%(エフェクト音のみ)で使うのが原則です。

慣れないうちはプリセットからイメージに近いものを選び、Reverb Timeを変化させて、サウンドの違いを体感で覚えていくと良いと思います。また、Reverb Typeの音の違いを覚えておくと、作りたい空間のイメージに沿った残響を得ることができるようになるはずです。

Q17.ショート・ディレイやロング・ディレイなどと耳にしますが、どのように使い分ければ良いのですか

まずはそれぞれのディレイのパラメーターから見ていきましょう。

Delay Time:原音が鳴ってから、次のディレイ音が聴こえるまでの時間…つまり、山びこが返ってくる間隔を調節するのがDelay Timeです。msec単位で細かく設定することもできますが、多くのプラグインでは音符の長さやDAWソフトで設定しているテンポに同期させることができます。

Feedback:山びこ効果が繰り返される回数を設定します。

プラグインによっては他にもたくさんのパラメーターがありますが、この2つをまずは覚えておきましょう。そして、ショート/ロング・ディレイと言われるのはDelay Timeの長さです。具体的には、〜50msec程度のショート・ディレイは短いスパンで繰り返しが起きるので、ダブリングしたかのような効果を作ることができます。また、200〜400msec程度はミディアム・ディレイ、それ以上のロング・ディレイになるとリバーブのような空間の広がりを演出することができます。ディレイをあまり目立たせたくない場合や、フレーズや楽曲のアレンジの一部としてディレイを使う場合にはショート〜ミディアム、ディレイらしい広がりが欲しい場合にはロングが基本になるでしょう。

▲ディレイの概念図

Q18.デジタル・リバーブとIRリバーブは、どのように使い分ければ良いのですか

基本的には明確な使い分けはないので、使いたい方や欲しいサウンドが出るものを使えばOKです。しかし、両者は残響音の作り方が異なるので、得意とする方向性が違います。

まず「デジタル・リバーブ」と呼ばれているものはアルゴリズムを使って機械的に残響を作り出すタイプで、通常、リバーブと言えば、このタイプを指すのが一般的です。それに対して、「IRリバーブ(別名:サンプリング・リバーブ)」は実際のホールやスタジオの残響をレコーディングして作られた「インパルス・レスポンス」というファイルを使って空間を表現するタイプ。サンプラーのように実際の残響を元にしているので、純粋な空間の再現度で言うと、IRリバーブの方が有利です。

しかし、曲作りやミキシングでは必ずしもリアルなことが求められるものでもありません。最近のDAWソフトはデジタル・リバーブとIRリバーブの両方を付属している場合が多く、固定概念を持たずに、いろいろと試してみるのが良いと思います。

▲最大5つのリバーブを組み合わせて、自分だけのリバーブを作成できる、OVERLOUD / Rematrix

Q19.「奥行き感」が欲しくてリバーブやディレイをかけると、音が団子状態になってしまいます。どうすればスッキリとした空間を作れますか

リバーブやディレイは空間を演出するのに有効な手段ですが、使い方や楽曲のアレンジによっては残響が他の音の邪魔をしてしまい、逆効果になってしまうことも少なくありません。

そのような時はEQやかけ方を工夫してみるのはどうでしょうか。例えば、リバーブに中低域の成分が多いと、どうしてもモコモコとしたサウンドになってしまうので、リバーブ音の不要な成分をシェルビング・タイプのEQでカットします。こうすることで、リバーブ感を保ったまま音像のボケを緩和することができます。反対にディレイの場合は高域をカットするのも定番のテクニックです。なお、EQはリバーブやディレイのプラグイン内に付いている場合があります。

リバーブ単体で残響や広がりを付けようとするのではなく、ディレイと併用するのもオススメ。リバーブ音をディレイにセンドすることで空間の広がり具合が増し、リバーブをかける量を減らすことができるはずです。


機材編

テクニックや知識だけでなく、使用する機材に関する悩みも尽きないもの。最後はミックスの環境について考えてみたいと思います。

Q20.ミキシングに向いているDAWソフトはどれですか

ミキシングに最適なDAWソフトというのは、ないと思います。というのも、どのDAWソフトでもミキシング作業で必要とされる機能は網羅されており、「このソフトではできない…」というのは基本的にはないはずなので、普段から使い慣れているソフトを使うのが一番です。

「ソフトによって音が違う…」というのを耳にしたことがある人もいると思います。若干の違いはあれど、「音の良し悪し」というものではなく、どれも一定の水準以内です。DAWソフトによる音の違いよりも「どういった音作りをするか」という方が圧倒的に仕上がりに差が出ることでしょう。強いて言うのであれば、「自分が使い慣れているか」という程度です。曲作りやアレンジで使うソフトとミックスやマスタリングで使うソフトを分けている人もいますが、機能の面でもメリットは気にしなくても大丈夫だと思います。

Q21.やはり高価なプラグインがないとダメですか

最近のDAWソフトは標準で付属するプラグインの質も量も充実しているので、まずはDAWソフトの標準プラグインで初めても十分だと思います。たしかに高価なサードパーティー製のプラグインは優秀で、市販の音源で聴くことができるような効果を簡単に作れますが、付属のプラグインでミックスやエフェクトの扱い方を覚えたり、使っているプラグインに不満が出てから購入を考えても、決して遅くはありません。また、優秀なプラグインを適当に使うよりも、エフェクトとしての質は多少落ちたとしても、それを理解して使いこなすのでは後者の方が好ましい仕上がりになるはずです。

なお、サードパーティー製のプラグインを購入する場合は必要なプラグインを単体で買い揃えていくのも良いですが、最初はバンドル製品を探してみるのがオススメ。バンドル製品はEQやコンプレッサー、リバーブといった必須のものからモジュレーションやピッチ系などのエフェクトを一度に揃えることができるので、DAWソフトに付属するプラグインから全体的なブラッシュ・アップが行えます。一度の出費は大きくなってしまいますが、プラグイン単体で買い揃えるよりも1つ単位のコストは圧倒的に安く抑えることができるので、将来的にもお得です。

▲ミキシングやマスタリングに最適な35以上のプラグインを収録。DAW付属プラグインからのレベル・アップにも最適なWaves / Gold

Q22.ミキシングの作業はヘッドフォンでも大丈夫ですか

「環境的に大きな音が出せない…」というケースでは仕方がないかもしれませんが、スピーカーとヘッドフォンを併用するのがベストです。

ヘッドフォンの利点は周囲への騒音を気にする必要がないだけでなく、ドライバーが耳のすぐ近くで音をダイレクトに届けてくれるので、細かいところまでハッキリと聴き分けることができる点と言えます。

それに対して、スピーカーは左右のスピーカーの音が空気中で混ざり合ったり、前後左右の壁や天井で反射して耳に届くので、「音を聴く」という面では同じであるものの、耳に届く音は大きく変わってくることは知っておく必要があるでしょう。例えば、スピーカーで聴いた場合に比べると、ヘッドフォンでは左右の定位がハッキリと出やすいので、ヘッドフォンでバランスを取った音をスピーカーで聴くと、意図していたよりも広がり感が薄れてしまう傾向にあります。また、音の奥行きはスピーカーでないと表現が難しい部分もあることから、小音量/小サイズでも良いので、スピーカーを一式用意しておくのが理想ではないでしょうか。

▲小音量でもバランスの取れたサウンドで、音量が出せない環境やサブ・スピーカーに最適なTASCAM / VL-S3

Q23.アウトボードって何のことですか

パソコンやDAWシステムの進化によって、音楽制作のすべての作業がパソコンのソフトウェア内部で完結できるようになりました。しかし、ハードウェアのマイク・プリアンプやエフェクターなどの「アウトボード」を組み合わせることで、さらにサウンドを追い込んでいくことができます。

プラグインにはマシン・パワーが許す限り、同じプラグインを同時に使用することができたり、設定を保存してリコールができる、何よりも安価といったソフトウェアならではのメリットがありますが、アウトボードにはソフトウェアにはない、ハードウェアならではの質感があります。プラグインも年々進化を続けており、ハードウェアを再現したモデリング系のプラグインなどは実機に肉薄しているものもあります。

しかし、完全にイコールではないので、音質を追求するのであれば、ぜひアウトボードも視野に入れてみてください。コンプレッサーやEQはもちろん、マイク・プリアンプなども通すだけでアナログのキャラクターが付加され、俗に言われる「デジタル感」を脱却することができます。最近ではAPIのVPRアライアンスをはじめ、比較的安価で手に入れやすいアウトボードも多数発売されています。

Q24.お金をかけずにミックスを向上させる方法はありませんか

一番はミキシングの技術を磨くことですが、誰でも手軽に試せるのが、サンプリング・レートを上げて作業してみることです。CDのフォーマットはサンプリング周波数が44.1kHzで、量子化ビット数が16bit。この数値を上げることで表現できるニュアンスが広がるのですが、ハイレート化させることで録音環境がシビアになったり、マシン・パワーを喰うといった問題点もあります。

そこでオススメなのが、ミキシング作業だけハイレートで行う方法です。録音した素材や打ち込んだ音声をアップ・サンプリングしてエフェクトをかけることで、リバーブやEQといったエフェクト類のノリが良くなります。もちろんハイレート化した音の変化が欲しい質感に合わない場合もありますが、お金もかからないので、一度試してみてください。

まったく考え方を変えて、「ミックスを友達にやってみてもらう」というのもオススメです。自分だけでやっていると、どうしても決まった処理がルーティーン化してしまうので、他の人がどのように作業するのかを勉強することで、新たな視点が見えてくることがあります。ミックスの考え方や手法、持っているノウハウは人によって大きく異なるので、いろいろな人の考え方や使い方を見るだけでもレベル・アップにつながるはずです。