音楽をやっていると「実はよくわかっていないんだけど、何となくできちゃってるんだよね…」なんてことが意外と多いと思います。しかし、ちゃんと知っていればこれまで以上に作品のクオリティーが上がるはず…。音楽を作る上で最低限知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説していく「絶対わかるシリーズ」、今回のテーマは音楽制作の最終工程であるマスタリング。マスタリングとはどのような工程なのか、そしてどのような処理を行っていくのかなど、基礎知識から音作りのコツ、最新ツールまでを紹介していきます。

本記事は、「基礎編」と「実践編(本記事)」の2部構成になっています。


メーターのアレコレ

ここからはマスタリング関連でよく耳にする専門用語や、知っておくと便利なTipsを紹介します。

作業の最終工程であるマスタリングは、いわば「自分の曲が他の人にどのように聴かれるか」を決める作業。それだけに、その曲だけでなく他の人の曲に比べてどうなのかにも気を配る必要がでてきます。その際の基準としてわかりやすいのがメーターです。マスタリングのポイントは「どうしたいのか」という目的をしっかりと持つこと。「音圧を上げたい」とか「低域をスッキリ聴かせたい」なんて場合に、リファレンスと自分の曲でメーターの挙動がどのように違うかを見比べると、自分の曲に足りない要素が見つけやすいでしょう。マスタリングではいろいろなメーターが使われますが、中でも代表的なメーターを見ていきましょう。

マスタリングを行う時は、いろいろなメーターを使って音量や周波数分布を視覚化しながら作業していくのがオススメ。リファレンス曲と自分の曲を見比べてみましょう。

ピーク・メーター

「ピーク・メーター」は、瞬間的な音量を確認するためのメーター。DAWソフトのトラックのメーターも、このタイプです。0dBになるとPEAKレベルとなり、これ以上の音量は音割れしてしまいます。マスターを書き出すときは、必ずピークが点灯しないことが大前提ですので注意してください。

RMSメーター

ピーク・メーターは瞬間的な音量を知るには便利ですが、逆に言えばピークしかわからない…つまり音量感を表現することはできません。そこで、エネルギー量(音圧)を数値化したのが「RMSメーター」です。RMSはRoot Mean Squareの略で、日本語に表すと実効値という意味。音圧を数値化する際に利用されています。

しかし、このRMS値を使う際には気をつけなくてはならないこともあります。まず、RMSの基準自体が「実効値を数字的に正しく表示する」タイプと、「AES-17 Standard」という2種類あるということ。詳細は割愛しますが、どちらを採用しているかはプラグインによって異なるため、同じ「-10BFS」でも、実際の音量感は違ってきます。数字だけで話をすると、人によって音量感が変わったり混乱を招いてしまう場合があることを頭の片隅に置いておいてください。

2つ目は、人間の聴こえない帯域の音でもメーターが触れてしまうこと。極論を言えば、人間の聴き取りにくい超低域が強く出ている場合、RMS値は大きいのに聴感上のレベルはそうでもない…なんてことが起こってくるのです。

ラウドネス・メーター

そこで、人間の聴覚が感じる音量感を数値化したものが「ラウドネス・メーター」です。元々はTVや映画などの放送業界向けに作られた企画ですが、より正確な音圧感を表現できるという意味では、音楽制作に流用するのも有効で、対応するメーターも増えてきています。

ピークはその信号の音量の最大値を表します。それに対し、RMSは平均値を数値化したものです

ピークを越えてないのに音割れ?

リミッターも使い、ピーク・メーターはクリップしてないはずなのに、書き出したファイルを聴いたらなぜかクリップして音割れしている…そんな経験はありませんか? この原因の大きな理由が「インター・サンプル・ピーク(トゥルー・ピーク)」です。

デジタル・オーディオは、サンプリング周波数とビット深度によって数値化されているのはご存知の通り。グラフで描くと、ちょうど棒グラフのような形になっています。しかし、デジタルでは最大音量が0dB以内に収まっているデータでも、アナログ・データの変換時には図10のように0dBを超えてしまう場合があるのです。これがリミッターをかけているのに音が割れてしまう原因。

これを防ぐには、最終段のフェーダーをほんの少し下げてマージンを取っておくか、インター・サンプル・ピークを処理できるリミッターを使用します。

ジタル・データでは0dB以内に収まっていても、アナログ・データに変換した際に一時的に0dBを超えてしまうことも…。この場合、リミッターを使っても音割れが起こります

MS処理を活用しよう

最近では、マスタリングだけでなくミックス・ダウンでも活用されるようになったMS処理。通常、DAWソフト上でステレオ・トラックは右と左にわ分けて処理するのが一般的です。それに対してセンター成分(Mid)とサイド成分(Side)の2つで処理するのがMS方式です。

こうすることで、ステレオではできなかったような自由な処理…例えば、MidとSideのボリューム調整だけで、定位や奥行きをコントロールできるようになるわけです。また、MS方式が取り沙汰される大きな理由は、音圧を稼ぎやすいという点でしょう。楽曲の中で最も大きな音はセンターに集まっていますから、Mid成分だけにコンプをかけて圧縮してしまえば、その分だけ音圧を稼げる…というメカニズム。ですが、これは少し注意が必要です。

確かに情報量の多いMidをコンプで潰せば、これまで以上に音圧を稼ぐことができます。しかしMidにはコンプがかかっているのに、Sideにはかかっていないという状況は違和感を生じてしまいます。また、ところどころで定位感がおかしくなってしまう可能性もあります。また相対的にSideのレベルが上がることで奥行き感が薄れていきます。MS処理は、場合によっては便利なツールであることは間違いないのですが、音圧を稼ぐという目的で使うには細心の注意を払う必要があるでしょう。

DDPフォーマットって何?

CDプレスに出す際、何かしらの方法で「マスター・データ」を入稿します。古くは3/4インチ・テープ、PMCD(PreMasterCD)と時代と共に変化してきましたが、現在の主流になっているのがDDP(Disc Description Protocol)という方式です。最近は対応ソフトも増えてきていますね。

DDPが便利なのは、データ・ファイルでメディアに依存しないこと。PMCDなどは対応するドライブを用意する必要がありましたが、DDPの場合は対応ソフトで書き出すだけ。そのデータをDVD-Rにコピーしたり、そのままプレス業者のサーバーにアップロードするだけで済みますし、メディア・コピー時のエラーも起こりにくく、データの保管も楽というメリットもあります。

ただし、DDPファイルを再生するにも対応ソフトが必要です。Wavやmp3のように、パソコンで気軽に聴くことはできません。

圧縮フォーマットを知ろう

フィジカルのCDを作るというのは、今なお特別な意味を持っていると思いますが、インターネットやスマートフォンが普及した現代において欠かせないのが音楽配信サービス。iTunesなどの配信サービスは、誰でも比較的簡単に自作曲を販売することができますし、販売まではしなくてもYouTubeのような動画配信サービスなどで公開する…なんてケースも多いことでしょう。

その際に避けては通れないのが、音声圧縮フォーマット。MP3やAACなど、プレイヤーによって様々なフォーマットが使われていますが、圧縮フォーマットの一番のメリットは、ファイル・サイズが小さくできる点ですが、どのような仕組みかご存じでしょうか。

フォーマットによって多少の違いはありますが、圧縮の基本は、音響心理学に基づいて人間の耳に聴こえにくい音を省くことです。聴きとりにくい帯域や、大きな音にマスキングされて聴こえにくい音など、「耳の特性上、なくても聴こえ方に大きな影響を与えない情報を間引く」ことで、データ・サイズを圧縮しているのです。実際にはもっと複雑な処理が行われていますが、圧縮ファイルが何となく低域や高域がなくなったように聴こえるのは、こういった理由からです。

一度圧縮してしまった音声は、後から元には戻せない「不可逆圧縮」ですので、失われてしまった音を後から取り戻すことはできません。最近ではApple LosslessやFLACのように元の情報に戻せる可逆圧縮のフォーマットも登場していますが、まだしばらくは不可逆圧縮が使われることでしょう。

また、配信サイトによっては独自のエンコードが行われる場合もあり、さらに音色が変化することもあります。何が言いたいかというと、音にこだわるのであれば、配信用のマスタリングを行う必要があるということ。最近では、配信メディアによるサウンド変化などを書き出し前に確認できるプラグインも登場していますので、こういったツールを活用するのも良いでしょう。

IK Multimedia / T-RackS 5

Slate Digital / FG-X

IK Multimedia / Lurssen Mastering Console