音楽を作る上で、今や欠かすことができないDAWシステム。打ち込みだけで曲を作るクリエイターはもちろん、弾き語りやバンドであっても、自分たちの演奏を録音作品に仕上げる時にはDAWシステムを使うことになります。今回は新年のスタートということもあり、改めてDAWシステムの概念について紹介していきます。音楽を作る/楽器を弾く人なら、使わなくちゃ損! まだ始めていない人も、ぜひこの機会に挑戦してみてください。

本記事は「前編」と「後編(本記事)」の2部構成です。


DAWソフトの基本的な概念

まずはDAWソフトを使う上で避けることができない、基本的な概念や考え方から見ていきましょう。一見複雑に見える画面も、規則性がわかってしまえばまったく難しくありません。本特集では、TracktionのWaveformを例にしていますが、基本の部分は他のソフトでも共通です。

無限に音を重ねられる

スマートフォンのレコーダーや、リニアPCMレコーダーとDAWソフトの大きな違いは「トラック」の概念です。トラックは、楽器を録音するための入れ物。例えば、スマートフォンのレコーダー・アプリなどの場合、その場で鳴っている音を1つの(ステレオ)トラックにまとめて録音します。すべての音がミックスされて録音されるので、録音後に特定の楽器だけ編集したり、音量バランスを変えることはできません。

それに対し、DAWソフトの場合は各楽器ごとに別のトラックに録音していく「マルチトラック」で曲を組み立てていくのが基本です。別々のトラックなので、楽器別に細かく編集することも自由自在。さらに言うと、同時に録音する必要もないので、別の日や別の時間に録った音を同時に鳴らすことができます。3ピースのバンドでもギターを何本も重ねて録音したり、多重コーラスを作ったりと、レコーディングならではのアレンジやアプローチは、マルチ・トラックの大きなメリットです。

この考え方自体は、MTRやハードディスク・レコーダーでもお馴染みですが、DAWソフトの強みはトラック数に制限がないことです(※ソフト/バージョンによっては制限が設けられていることもあります)。音楽的な良し悪しは別として、パソコンの処理能力の許す限り、何十何百の音を重ねていくことができるのです。

メイン画面の基本

これを踏まえた上で、DAWソフトのメイン画面を見てみましょう。音楽は時間に沿っていろいろな楽器構成やフレーズが変化しながら進んでいきます。DAWソフトの画面で、そのタイミングが何小節目かを表示しているのが「①タイムライン」です。DAWソフトを再生すると、一般的に左から右に向かって時間が進んでいきます。今再生しているところは「②再生マーカー」で知ることができます。再生中でも、画面をクリックすることで好きなタイミング(小節)に瞬時にジャンプすることができます。

次に縦方向に見ると、楽器の数に応じて「③トラック」が並んでおり、さらに各トラック上には「④クリップ」が配置されています。クリップは、自分の演奏や打ち込みしたデータを保管する箱。クリップを鳴らしたいタイムラインの位置に置くことで、そのタイミングでフレーズを演奏させることができます。ちなみに、クリップはタイミングを移動したりコピー&ペーストといった編集も自由自在。こういった編集ができるのもDAWソフトの大きな魅力です。

MIDIとオーディオ

次に、DAWソフトが扱えるデータの種類についてです。クリップをよく見ると、表示されている中身が微妙に違うことに気付くと思います。

細かい線が書かれているクリップは「MIDI(ミディ)クリップ」と呼びMIDIデータが記録されています。いわゆる「打ち込み」でできるデータで、「何小節目の何拍目に○○の高さの音を、○○の長さ(音価)で鳴らす」という演奏情報が記録されています。単なる演奏データなので、このデータを音として鳴らすためには音源(シンセサイザー)が必要です。また、この情報は録音した後で音程やタイミング、音色を自由に変更することができるのも特長です。

それに対して波形が表示されているクリップは「オーディオ・クリップ」。自分で録音した演奏は、このように表示されます。オーディオ・データは演奏した音がそのまま記録されているので、原則としてMIDIデータのように細かく編集することはできません。

DAWソフトでは、MIDIデータとオーディオ・データを使い分けながら曲を作っていきます。トラックの扱い自体が違うので、両者の違いをしっかりと把握しておきましょう。

▲後から演奏内容を自由に編集できるMIDIクリップ(上)と、自分の演奏を録音するため、細かい編集はできないオーディオ・クリップ(下)

レコーディングの流れ

ここからが本番! 実際に楽器をレコーディングしてみましょう。ここではエレキ・ギターのライン録りを例に紹介しますが、基本的な操作はどんな楽器を録音する時も同じです。流れがわかってしまえば、ボーカルだろうとドラムだろうと、簡単に録音できるようになります。

 

録音はたった5ステップ

「デジタル・レコーディング」と聞くと、小難しく感じてしまうかもしれませんが、実際は非常に簡単。たった5つの工程でレコーディングが行えます。

1.楽器を接続する

まず最初に、録りたい楽器…ここではエレキ・ギターを、オーディオ・インターフェイスの入力端子に接続します。ケーブルは、普段使っているシールドでOK。この時、オーディオ・インターフェイスの「INSTRUMENTS」や「Hi-Z」と書かれた楽器接続用の入力端子に接続するように注意してください。

2.オーディオ・トラックを作る

DAWソフト上に、これから録音する演奏を入れるための「オーディオ・トラック」を作っていきましょう。ソフトによっては、トラックを作成する時に「ステレオ」や「モノラル」を指定できると思いますが、エレキ・ギターをダイレクトに接続する場合はモノラルを選びます。モノラル楽器をステレオで録ってしまうと、スピーカーの片側からしか音が鳴らなくなってしまうので注意が必要です。

ちなみに、シンセサイザーやアンプ・シミュレーターなどステレオ出力のできる楽器や機材を録りたい場合はステレオを選びます。

3.入力チャンネルを設定する

次に、作成したトラックの「入力チャンネル」を設定します。録りたい楽器が接続された入力端子を、トラックの入力に設定しましょう。

4.録音レベルを調整する

レコーディングで何より重要なのは、適切な音量で録音することです。DAWソフトの画面上に表示されるレベル・メーターや、オーディオ・インターフェイスのCLIPインジケーターが赤く点灯しないように、入力レベルを設定していきましょう。ギリギリに設定する必要はないので、少し余裕を持たせておくと安心です。

5.録音する

以上の設定ができたら、トラックごとに付いている「録音待機」ボタンを点灯させた状態で、録音ボタンを押してレコーディングを開始しましょう。録音中は、設定したテンポに合わせてクリックを鳴らすことができます。

「停止」ボタンを押せば、録音は終了します。

エフェクトをかけながら録音する

今回のようにエレキ・ギターをライン録りする場合、素の音では味気ないもの。そんな時には、DAWソフト上に「プラグイン・エフェクター」を使うのがオススメです。最近のDAWソフトであれば、ギター/ベース・アンプやエフェクターのサウンドを再現できるアンプ・シミュレーター・プラグインが付属していることが多いと思うので、トラックに設定すると迫力のあるサウンドでレコーディングが行えます。

このプラグイン・エフェクターが便利なのは、簡単に「リアンプ」ができる点です。プラグイン・エフェクトは、DAWソフトが音を再生する際にエフェクト効果をかけているため、DAWソフト上に録音されているのは、あくまでもギターの素の音。録音後にプラグインの設定を変更すれば、歪みの量を微調整したり、アンプを変えたりと自由自在です。

うまく弾けた部分を張り合わせる

また、ぜひ活用して欲しいのがコンピング機能。これは、複数の演奏を録音しておき、うまく弾けた部分を張り合わせることで「最高の1テイク」を作ることができる機能です。多くの場合、マウスで波形をなぞるだけで簡単に使えます。特にソロなど難しいフレーズを録る時には重宝しますよ!

複数の演奏データの「良い部分」を張り合わせてベスト・テイクを作ることができます

MIDIデータを打ち込む

自分の弾けない/持っていない楽器の演奏を再現できるのも、DAWソフトを使う大きなメリットです。1人でも重厚なバンド・サウンドやフル・オーケストラを作ることができます。思い通りに打ち込めるようになるには、多少慣れが必要ですが、ぜひとも習得しておきたい機能です。

ピアノロールの使い方

打ち込みというのは、「このタイミングで、この音程をどの位の長さで発音する」という情報をプログラミングしていくこと。オーディオの録音と違い、演奏データだけなので、その音を鳴らすには「プラグイン(ソフトウェア)・シンセサイザー」を使う必要があります。エフェクト同様、まずはDAWソフトにあらかじめ付属しているシンセサイザーでも十分な音色が手に入るはずです。

MIDIデータの打ち込みにはいろいろな方法がありますが、最もベーシックなのが「ピアノロール」画面を使う方法です。ピアノロール画面は、縦方向が音程、横方向が時間軸を表す編集画面で、マウスを使って入力したい音程とタイミングが交差する場所でノート(音程)を打ち込んでいきます。ピアノロールには、楽譜のように休符という概念がないので、無音にしたい場合にはノートを置かなければOK。また、演奏の強さも「ベロシティー」という数値で調整することができます。

マウスで簡単に打ち込んだり、打ち込んだ後で編集ができるので非常に便利な機能です。慣れないうちは打ち込みたいフレーズをピアノロール上に再現するのに苦労すると思います。残念ながらこればかりは数をこなして慣れるしかありません…。「打ち込む→再生→編集」の作業を繰り返しながら、曲を組み立てていきましょう。

DAWソフトによっては、楽譜画面などピアノロール以外の編集画面が用意されている場合もあります。

MIDIキーボードを使おう!

MIDIデータの打ち込みで、一番簡単なのはマウスを使って1音1音打ち込んでいく方法です。これは時間もかかり、何より面倒! そこでオススメするのがMIDIキーボードを使った打ち込みです。キーボードは弾けない…という方もご安心ください。DAWで使うMIDIキーボードは楽器というより、打ち込みを効率的に行うためのスイッチのようなニュアンスが大きいので、鍵盤楽器の演奏技術はあまり関係ないのです。

MIDIキーボードを使う打ち込みには、大きく分けて2つの方法があります。1つ目は、曲に合わせて鍵盤を演奏する「リアルタイム入力」。この方法は、ある程度の演奏能力は必要ですが「入力が実時間で済む」というのが最大のメリットです。演奏技術がなくても〜というのは、オーディオ録音と違って後から簡単に修正できるからです。演奏のズレは「クオンタイズ」という機能を使えば1クリックで正しいタイミングに直せます。また、音程を間違えてしまったらピアノロールで直して、ミスタッチした音は消せばOK。タイミングだけリアルタイム入力で打ち込んでおいて、音程はあとからマウスで付けても良いでしょう。

2つ目は「ステップ入力」。これは打ち込みたい音の長さを設定しておき、音程をキーボードで指定するという方法で、ちょうどマウスの代わりにキーボードを使うイメージです。こちらは、テンポに関係なく好きなタイミングで打ち込んでいけるので、さらに演奏能力は不要です。

MIDIキーボードがあると、シンセサイザーの音色を確認する際にも便利です。DAWソフトのリモコン的に使えるモデルもあるので、キーボーディストでない方でも持っておいて絶対に損のない機材です。

パターンを活用する

ソフトウェア音源によっては、音色だけでなく楽器フレーズのMIDIデータが収録されている場合もあります。特にドラム音源では、数百パターンという膨大な数のパターンが収録されることも少なくありません。パターンはドラッグ&ドロップで簡単にDAWソフトに取り込み、ピアノロールなどでカスタマイズもOK。下手に自分で打ち込むよりも、リアルでかっこ良い演奏が再現できる…なんてケースもありあそうです。

フレーズ・パターンが収録されている音源を使えば、打ち込みの手間を一気に解消することができます

ミックスして楽曲を仕上げる

レコーディングや打ち込みで曲が完成したら、最後はミキシング作業で作品に仕上げていきます。曲の中での各楽器の音量バランスを調整したり、エフェクターを使ってサウンドを磨き上げたり…と大変な作業ですが、それだけに面白く、作品のクオリティーを大きく左右する大切な工程です。

理想のサウンドを追求しよう

作曲/アレンジ、レコーディングが終わったら「ミキシング/ミックス・ダウン」という作業を行って、曲を仕上げていきます。ミキシング作業は各楽器の音量バランスを整えたり、エフェクターを使って音を加工することで、音楽作品として聴きやすく、同時に曲の雰囲気を自分のイメージに近づけていくのが目的です。例えば、ボーカルの音量がほんの少し変わるだけで、曲の印象がガラリと変わって聴こえるので、どんなミキシングを行うかはとても大切です。

イメージ通りのサウンドを作るためには、エフェクターの知識など楽器や曲作りとはまた違ったノウハウが必要になりますが、理想のサウンドを目指して挑戦してみましょう!

ミキサー画面の使い方

ミキシング作業に決まった方法はありません。いろいろな知識は必要ですが、紙面の都合上すべて解説することは難しいので、ここではミキサー画面の役割について紹介します。ミキシングで必須のイコライザーやコンプレッサーについては、特集記事で詳しく紹介しています。記事は本誌のWebサイトで公開しているので、ぜひチェックしてみてください。

DAWソフトのミキサーはいろいろなボタンがあって一見複雑に見えますが、基本的にはリハーサル・スタジオなどにあるミキサーと同じです。大きく違うのは「②FXスロット」。ここにEQやコンプレッサー、リバーブ、ディレイといったプラグイン・エフェクトを設定することで、サウンドを自由に加工することができます。音は上から下に向かって流れていくので、エフェクトを配置する順番によって異なるサウンドを作ることができます。

エフェクトはFXスロットに直接設定するのではなく、センド/リターンという方式でかけることもできます。例えば、リバーブのように複数のトラックに同じ設定のエフェクトをかけたい場合、すべてのトラックに個別にエフェクトを設定すると設定を変えたい時に面倒ですし、CPUパワーも無駄になってしまいます。そこでエフェクト専用のトラックを作り、各トラックから音を送る(センド)ことで、1つのエフェクトを複数トラックで共有することができます。

「③パン」は、音の定位を変更することができます。楽器ごとに鳴る位置を割り振ることで、広がりのあるステレオ・サウンドを作ることができます。一次的に特定の音だけ聴きたい…なんて場合は「④ミュート」や「⑤ソロ」機能を活用しましょう。

ミキシングの基本は音量バランスです。「⑥チャンネル・フェーダー」を使って、各楽器の音量バランスを整えていきます。レベル・メーターが赤く点灯しないように注意してください。