音楽を作る上で最低限知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説していく「絶対わかるシリーズ」。今回はホーム・スタジオ作りに欠かせない基礎知識とアイデアを紹介します。完成度の高い曲を作るために何より大切なのがモニター環境。
音作りやミックス・ダウンの精度を高めるということだけでなく、快適に曲が作れるかどうかにも大きな影響を与える大切な部分です。ぜひ納得できるモニター環境作りに挑戦してみてください。
本記事は「モニター・スピーカー編」と「チューニング編(本記事)」の2部構成です。
セッティングの基本は正三角形
モニター・スピーカーを手に入れたら、セッティングにもこだわってみましょう。置く位置やリスニング・ポイントとの距離によって、聴こえるサウンドが激変します。スピーカーの性能をフルに発揮するには、きちんと設置することが大切です。
独自のセッティング方法があるという人もいるかもしれませんが、まずはセオリーとされるセッティングを試してみてください。スピーカーは、音を聴く場所(リスニング・ポイント)と2つのスピーカーが正三角形を描くような位置に設置するのが基本です。つまり、スピーカーと自分の距離が近い場合は、スピーカー同士の距離も狭めないと正確なリスニングはできないということです。
また、スピーカーは真正面に向けるのではなく、耳の位置に合わせて若干内側に向くようにセッティングしておきましょう。どのくらい内振りするかによって定位感が変わりますので、実際に音を聴きながら好みのサウンドになる位置を調整してみてください。
続いて、ツイーターが耳の高さに合うように高さを調節していきましょう。高さ調節にはスピーカー・スタンドを使うのがベストですが、スペースがなく机の上に置かなくてはならない場合は、角度を付けてあげましょう。ツイーターが耳を向いていないと、低域が強調されたバランスの悪いサウンドに聴こえてしまうので、しっかり調整していきます。
調整機能を活用する
スピーカー・セッティングで重要とされているのが周囲の環境です。特に背面と壁との距離は、低域の量やクリアさに直結することが多いので、できるだけ距離を離すのが理想です。とは言っても、自宅スタジオの場合は居住性も大切ですし、限界もありますので「何cm空けないと…」というほどシビアに考えなくても大丈夫です。小型のデスクトップ・モニターの場合は、背面との距離が十分に取れないことを前提にサウンドをチューニングしていることもあるので、音を聴きながら判断することが大切です。もしスピーカー背面と壁との距離が十分取れず、低域がぼやけて聴こえてしまう場合は、スピーカーに搭載されている補正スイッチを使って低域をカットしましょう。どれだけ細かく調整できるかはモデルによって異なりますが、設定をいろいろ変えながらサウンドの変化を聴き比べ、最適と思えるセッティングを探ってみてください。
この作業は何となくスピーカーの出音が変わってしまうようなイメージがあると思いますが、そもそも調整用に付いている機能です。0dBの位置がフラットだから…という固定観念に縛られる必要はありません。
DAW環境の場合、ぜひ確認して欲しいのがディスプレイとスピーカーの位置関係です。特にスピーカーより前(リスニング・ポイントに近い)にディスプレイを置いている場合、音に干渉して良くない結果を招いてしまうことがあります。特に最近は大型のディスプレイを使うケースが多いと思いますので、これも大事なチェック項目になるでしょう。音の干渉が気になる場合は、ディスプレイ・アームなどを使って角度を付けるだけでも大きく改善するはずです。
アクセサリーで改善する
スピーカーの調整が終わったら、ぜひアクセサリーも試してみてください。最もシンプルかつ効果的なのが、スピーカーの下に敷いて振動を抑制する「インシュレーター」です。そもそも、音というのは空気の振動で、電気信号を空気振動に変換するのがスピーカーの役割。音が鳴っているスピーカーに手を触れると、スピーカー自体が振動しているのがわかりますが、この振動をなるべく他に伝えないようにすることが大切です。
スピーカー・セッティングで一番NGなのは、机の上に直接スピーカーを置いてしまうことです。この状態で音を鳴らすと、スピーカーで生じた振動が机を伝わり、スピーカーや他の機材に伝わってしまいます。この振動が音をボヤけさせる原因になり、正しい音を聴けなくなってしまうのです。本来、スピーカーは宙に浮かせるのが理想ですが、これは現実には不可能。そこで、なるべく振動が伝わらないようにインシュレーターを使って振動をコントロールするのが有効とされています。
デスクトップ上で使うことが前提とされているスピーカーでは、設計的に何らかの対策が取られていることが多いのですが、そうでない場合は少し気を使う必要が出てきます。インシュレーターやスタビライザーは比較的安価で、効果を考えるとコスト・パフォーマンスも高いので、試してみる価値は十分にあるでしょう。当然スピーカー・スタンドと組み合わせて使ってもOKです。
ルーム・チューニングに挑戦
次に紹介するのは、スピーカーではなく部屋自体をモニターに適した環境にする方法です。ルーム・チューニングは非常に奧が深く、部屋の広さや材質、環境によっても変わってくるので、追求すると専門の業者に相談するのが近道…。ここでは、比較的簡単に試せる吸音材やオーディオ・パネルの活用方法を紹介します。
そもそもどうしてルーム・チューチューニングが必要なのでしょうか。下図は、スピーカーから発された音がどのように耳に届くかを簡易的に表した図で、スピーカーから直接耳に届いているのは赤いラインだけ。それ以外は、前後左右の壁や、天井/床で反射された音を聴いているのです。反射がどうして悪影響があるかというと、音の波同士がぶつかることで変質してしまうからです。特定の帯域だけ強調されたり、逆に打ち消しあってしまうのです。
これを回避する方法はいたってシンプル。音の反射を抑制すれば良いのです。そこで使われるのが吸音材です。なお、吸音材は音のエネルギーを奪うという目的ですので、これ自体に防音効果はありません。
音の反射を抑える
音の反射を抑えるのが目的ということを考えると、おのずと設置する位置も決まってきます。部屋のレイアウトによっても多少異なりますが、効果的なのがスピーカーの側面、背面、そしてリスニング・ポイントの後ろの3箇所(下図参照)。つまりスピーカーから出た音が最初に反射する部分が、最も吸音の効果が高いということになります。
スピーカーの前後面は位置が見つけやすいと思いますが、難しいのが側面。計算で導き出すこともできますが、かなり大変なので原始的かつ簡単な方法を紹介します。まずはリスニング・ポイントに座り、側面の壁に鏡を設置します。この状態で鏡を見ながら鏡の位置を動かしていくと、ツイーターが映る場所が見つかると思います。ここが音が反射する場所。あとはその場所に吸音材を設置すればOKです。
また、リスニング・ポイントの後ろ側に関しては、家具を置いて反射をずらす、なんて手法も有効です。特にランダムに本が入った本棚は、良い具合に拡散してくれるので効果的です。
モニター環境のグレード・アップ
少し視点を変えてみましょう。今あるモニター環境をレベル・アップさせるという意味では、電源やケーブルに注目してみても良いでしょう。このあたりに関しては賛否両論があると思いますが、サウンドを追求する上では決して避けては通れない部分ではないでしょうか。著しく高価なものを使う必要はありませんので、まずは手の届く範囲で試してみると面白いですよ。また、海外製のスピーカーの場合は電源を昇圧して使ってみるのもアリです。この場合は機材側の仕様をよくチェックした上で行ってください。
また、ミキシングの精度向上を狙う場合は複数のモニターを用意し、切り替えながら作業するのが効果的です。特に、サイズの違うスピーカーを用意しておくと、ウーファー口径によるサウンド変化を考慮した音作りが可能になります。サブ・スピーカーは、一般リスナーを想定してあえてチープなモデルを選ぶというのがプロでもお馴染みの手法です。なお、複数のスピーカーを使う場合は、再生ボリュームを手元でコントロールしたり、複数のスピーカーを瞬時に切り替えられるモニター・コントローラーがあると便利でしょう。
非常に奥の深いモニターの世界。ですが、それだけ効果があるのも事実なので、ぜひ理想のモニター環境を追求していきましょう!