音楽をやっていると「実はよくわかってないんだけど、何となくできちゃってるんだよね…」ということが意外と多いのではないでしょうか。しかし、ちゃんと知っていれば、これまで以上に作品のクオリティーが上がるはず。「絶対わかる」シリーズでは、音楽を作る上で最低限知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説していきます。シリーズ第3弾は「コンプレッサー」。何だかよくわからない…と言われるエフェクトの代表格ですが、本特集を読み終わる頃にはコンプが大好きになっているはず。早速見ていきましょう。
本記事は、「基礎編」「実践編(本記事)」の2部構成になっています。
コンプレッサーを使い分ける
タイプによってキャラクターがある
パラメーターの働きがわかったところで、コンプを使いこなす上で、ぜひ知っておきたい「動作タイプ」についても考えてみましょう。難しいことは割愛しますが、回路の違いによってコンプのかかり方やニュアンスに違いが出ます。もちろん「○○の用途では○○タイプを使わなくてはいけない」という決まりはありません。最近では有名アウトボードをモデリングしたプラグインも多数発売されているので、各タイプごとの特性を知って使い分ければ、さらに効果的な音作りが可能です。
デジタル・タイプ
デジタル的にサウンドを処理するプラグインならではのタイプで、設定パラメーターに対して素直な特性とキャラクターが特徴です。アナログ・モデリング系では、通すだけでサウンドが変化してしまったり、コンプレッション時にモデル特有のキャラクターが付加されてしまうことがあります。デジタル・タイプは原音のキャラクターを保ったままピュアなコンプレッションができるので、音作りというよりは補正用途にピッタリ。
モデルによってはアタックをゼロに設定できたりと、デジタルならではのメリットもあります。
FETタイプ
入力された電圧で電流を制御する…というタイプで、代表モデルはUniversal Audio(Urei)の「1176」。1176は、プラグインでも定番のコンプを代表するモデルといっても良いでしょう。FETタイプの特徴は、何と言ってもクリーンなサウンドと動作レスポンスの速さ。入力音にキビキビと反応してくれるので、アタックのハッキリとしたドラムやパーカッションとの相性は抜群。特にロック系で多用されるヌケの良いスネア・サウンドは、FETコンプならでは。もちろんボーカルやベースなど幅広い楽器にマッチします。
VCAタイプ
VCA回路を使ったのがVCAタイプです。現在販売されているコンプの多くが、このタイプですが、中でも有名なのがSSLの「Streo Bus Compressor」でしょう。元々はコンソールのセンター・セクションに搭載されていたコンプですが、現在では単体やプラグインで幅広く活用されています。VCAタイプに共通する特徴が、クリーンで素直なサウンド。動作も速いので、トラック単位での音作りはもちろん、バス・コンプとしてステム(バス)やマスター・トラックでも多用されています。
オプト(光学式)タイプ
入力音の強さを光に変換し、その光の大きさを検出してコンプレッションさせるのがオプト(光学式)タイプです。オプト・タイプと言えば、Universal Audioの「LA-2A」が代表格。その最大の魅力は、アタックの遅さ。アタックを強調したいパートには不向きですが、逆にボーカルやベースにかけると、独特のまったり感がとても気持ち良くハマってくれます。深くかけてもナチュラルさは保ってくれるので、自然にレベルを整えたいパートでは最高の効果を得ることができます。
チューブ(真空管)タイプ
コンプレッサーの世界でも、やはり真空管サウンドはミュージシャン/エンジニアの心を揺さぶります。すべてのパーツに真空管を使った純粋な真空管コンプは、Manleyの「Stereo Variable Mu」など、一部のハイエンド・モデルのみ。非常に高価ですが、それに見合うだけのナチュラルでクリーミー、そして圧倒的な存在感のあるサウンドを聴かせてくれます。プラグインであれば、手軽に使うことができますので、ぜひ真空管コンプ特有のサウンドを体験してみてください。
コンプの効果が絶対わかる、オススメのセッティング
ここで、コンプの効果と音作りの方法が絶対にわかる方法を紹介します。コンプが「難しい」と言われるのは、パラメーターが複雑というよりも、EQやリバーブ、ディレイのように明確に音が変わるわけではないので、「かけた時の効果がわかりにくい」という理由が大きいと思います。ならば、「わかりやすくかけてあげればいいじゃん!」というのが、ここで紹介する方法です。
パートは、ドラムがオススメ。使うコンプは何でもOKですが、オーソドックスなパラメーターを持ったタイプが良いでしょう。まずは次のように設定してみてください。
Threshold:最大 Ratio:大きめ(8:1〜程度)、Attack / Release:最速、それ以外のパラメーターは、初期値のままでOKです。
この状態では、まだコンプはかかっていません。音を聴きながら、Thresholdを下げてみてください。次第にコンプが働き、パシュ、パシュという音に変化していくのがわかるでしょう。これが、コンプで圧縮されたサウンドです。
次にこの状態でAttackを上げれば、音のアタック成分…特にスネアやキックのアタック感が強調されていくはずです。同様にReleaseも試してみてください。効果が体感できたところで、ThresholdとRatioを徐々に下げながら微調整してください。
EQポイントを探す時にQを狭めてFREQを動かすのと同じように、激しくコンプがかかった状態で音決めすれば、簡単に思う通りの効果を作り出すことができます。ぜひ試してみてください。
シーン別コンプレッサー設定例
最後に、代表的なコンプの活用シーンごとのコンプの設定例を紹介します。これはコンプに限った話ではありませんが、元々の音が違えば設定値も当然変わり、求める音が違えば尚更です。ここではあえて具体的な数値を出すのは控え、基本的な考え方だけを紹介していきますので、ソースに合わせて微調整してください。
レベルを整えて聴きやすくするコンプ
大きな音を圧縮し、小さな音との音量差を小さくして聴きやすい音を作る基本のダイナミクス・コントロールの例です。コンプの最も基本的な使い方ですが、同時に1番難しい使用法とも言えます。というのも、パッと聴いたときに露骨明確に音が変わってしまうのでは、やりすぎだからです。
Ratioは低めで、AttackとReleaseは元の音のスピードによって調節していくことになります。Thresholdを下げ目にした状態でAttackとRelaseを動かしながら、自然に聴こえるようなポイントを探していきましょう(素材によって変わります)。ある程度決まったら、GRメーターを見ながら波形の大きな部分が入ったところだけでコンプがかかるようにThresholdを戻していきます。Releaseにオート・モードが付いているモデルの場合は、オートにしてしまうのも手です。いずれにしても、作り手が聴いた時に「ちょっと足りないかな…」くらいで止めておくことが大切です。
音量差が大きな場合は、コンプだけでレベル補正するのは難しいので、トラックを分けるか、ボリューム・オートメーションを書きましょう。
アコギにかけた例(処理前→処理後)
ベースにかけた例(処理前→処理後)
音圧を稼ぎたいときのコンプ
音圧が欲しい場合にはAttackのコントロールがポイントになります。「音圧が大きい=ダイナミクスの差が小さい」ということなので、いかに波形の凹凸をなくすかがポイントになるからです。先ほどよりは、もう少し深めのRatioでしっかりとコンプレッションさせてみてください。
Attackが遅過ぎると波形の頭が出てしまいレベルが稼げなくなります。Releaseが速すぎると不自然なレベル変化になってしまいますので、音の立ち上がりと音量が下がる時のサウンド変化を注意深く聴いてみてください。完全にアタックを削ってしまうと音が平面的になってしまうので、やり過ぎは禁物です。コンプはある程度ピークを抑える程度に留めておき、後段にリミッターを組み合わせて使う方が音作りはしやすいでしょう。
またマルチバンド・コンプレッサーを使ってみるのも手です。各帯域ごとに個別にコンプが設定できるので、不要な低域を抑え込んだりと柔軟な音作りが可能です。マルチになっても考え方や使い方は通常のコンプと変わりません。
迫力を出したいときのコンプ
ドラムやギター、ピアノ、シンセなど楽器の種類を問わず、激しいコンプレッション・サウンドは気持ちの良いもの。アタックを強調したり、逆にリリースを伸ばしたり…と様々な音作りが可能です。
気持ちの良いコンプ・サウンドが欲しい時には、Ratio高めで深めのコンプをかけていきましょう。AttackとReleaseを速めにすれば歪んだようなサウンドが得られ、中間程度に設定するとパンチのあるコンプ特有のサウンドが得られるはずです。この用途で使うコンプは、モデルによって向き/不向きがあるので、いろいろなタイプを試してみてください。
また、MIXコントロールのあるコンプを使うのもオススメです。原音を足すことで音の芯を補うことができるので、音ヤセを気にせずにガッツリ潰せます。
ドラムにかけた例(処理前→処理後)
ピアノにかけた例(処理前→処理後)
サイド・チェインを使ったダッキング
少し特殊なコンプの使い方が、サイド・チェインを使って作るダッキング・サウンドです。EDMなどのベースやシンセ・パートで独特のうねりを与えるテクニックとして多用されていますが、バンド系楽曲のミキシングでも有効な手段です。
通常のコンプは、チャンネルの信号をトリガーに圧縮を行いますが、サイド・チェイン機能を使うことで、他のパート…例えばキックの鳴るタイミングでベースにかけたコンプを動作させるという仕組みです。これをうまく使うことで、キックの鳴っているタイミングでベースの音量を少し下げることができるので、曲の中でキックとベースの両方をしっかりと聴かせることができるのです。
サイド・チェインの使い方自体は、DAWソフトによって異なりますので、ここではコンプの設定だけを見ていきます。ダッキングで使う時のポイントはThresholdとReleaseの2つ。Thresholdで、キックが鳴った時にどれだけ音量が下がるのか、Releaseでベースの鳴り始めるタイミング…つまりノリをコントロールすることができます。音作りとしてだけでなく、ミキシングの隠し味としても重宝するので、ぜひチャレンジしてみてください。