音楽をやっていると「実はよくわかっていないんだけど、何となくできちゃってるんだよね…」ということが意外と多いのではないでしょうか。しかし、ちゃんと知っていれば、これまで以上に作品のクオリティーが上がるはず…。音楽を作る上で最低限知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説していく「絶対わかるシリーズ」、今回のテーマはイコライザー(EQ)。先月取り上げたコンプレッサーと並んで定番のエフェクトで、EQとコンプが思い通りに使えるようになると、ミキシング作業がこれまで以上に面白くなるでしょう。

本記事は、「基礎編」と「実践編(本記事)」の2部構成になっています。


EQプラグインを使い分ける

EQの基本がわかったところで、ここからは一歩進んだEQの活用テクニックを紹介していきます。

まずは、EQプラグインの使い分けです。ある周波数の要素をブースト/カットする…EQである以上、この基本は共通なのに、どうしてこんなにいろいろな種類のEQプラグインが販売されているんだろう…なんて疑問に思ったことはありませんか。

理由は簡単。ブーストした時のカーブやゲイン幅が製品によって違うため、例え同じ数値に設定したとしてもサウンドが同じになることはないからです。よく「音楽的なかかり具合」なんて言われるEQがありますが、周波数ポイントやEQカーブが楽器のオイシイ部分にマッチしていたり、大きくブーストしても音のバランスが崩れることがない…などイイ感じの音に仕上げてくれるといった理由が大きいと思います。もちろんカットした時のキレ具合にも差がありますし、EQにも明確なキャラクターが存在しています。

また、プラグインの中でも人気が高いビンテージ・モデリング系のEQの中には、通すだけで音にキャラクターがつくモデルもあります。そのキャラクターが欲しいからブーストもカットもせずに、キャラづけのためだけに通す…なんて裏技的な使い方があるほどです。

もちろん使い勝手もEQ選びの重要なファクター。最近では、EQカーブのグラフィックをマウスで直接操作できるプラグインが主流になっていますが、使えるバンド数が多かったり、画面の見やすさやアナライザーのような便利な機能の有無など、差を挙げていくと限りがありません。デジタル・タイプとアナログ・モデリング・タイプでそれぞれ数種類ずつ、お気に入りのEQを揃えておくと良いでしょう。

EQの基本はカット

EQを使う上で常に意識したいのが「ブーストよりもカットから始める」ということです。特にミックスで楽器ごとの住み分けのためにEQを使う時には、グッと堪えて不要な帯域を削った方が良い結果につながることが多いです。

EQでブーストすると音質的にも無理が生じます。何より各トラックに不要な成分が残ったまま他の音を混ぜてしまうと、不要な要素が他のパートの音を邪魔し、音がダンゴになってモコモコとしたセパレートの悪い音になってしまいます。

例えば、オケの中でボーカルが聴こえにくい時、何となくボーカルの高域をEQでブーストしてしまいがちです。確かに音ヌケは良くなるかもしれませんが、ボーカルの音量が上がってしまうのでフェーダーでボリュームを下げる…そうするとボーカルのローミッドが相対的に下がり、音が細くなってしまいます。このような場合、ボーカルをいじるのではなく、ボーカルを邪魔している他のパートを削っていくのが正解です。

ベースは低域が強い楽器ですが、低域だけではなく高域成分も含まれています。この高域成分はギターやボーカルといったパートの帯域とも被っているので、ベースの音量を上げていくとギターやボーカルが聴こえにくくなります。反対に影響がないレベルまでベースを下げると、楽曲全体の中でベースが小さくなりすぎる…といった具合に「あちらを立てればこちらが立たず」の無限ループになってしまいます。そこで、不要な高域成分をEQでカットして他のパートとの住み分けを作ることが重要になってくるのです。

重なった帯域を見つけるにはどうするか…というと、先ほど紹介した「EQポイントの見つけ方」を応用してみましょう。気になるパートにEQをインサートして、Q狭めでGAINはカット方向に設定します。この状態でオケ全体を鳴らしながらFREQをグリグリすれば、スッと音ヌケが良くなるポイントが見つかるので、必要に応じてQとGAINを調整すればOKです。

EQに限った話ではありませんが、1パートをソロで聴いた時にかっこ良く聴こえる音ではなく、「オケに入れた時に聴かせたい要素が生かせ、かつ他のパートの邪魔をしない音」を作るのがコツ。EQを使う時は、他のパートとの帯域のバランスを意識して聴いてみてください。

帯域ごとの鳴り方をイメージする

EQポイント自体は元々のサウンドや作りたい効果によって変わってきますが、各周波数の音がどのような役割を持っているのかを知っておくことは非常に大切です。代表的なポイントをいくつか紹介します。もちろん必ずしも「こうなる」というものではありませんが、EQをいじる時の参考にしてみてください。

EQを使う時に周波数アナライザーを見れば、どこにピークがあり、各帯域がどのような役割を持っているのかを視覚的に捉えることができます。画像はWavesの定番アナライザー・プラグイン PAZ Analyzer

例えば、50Hz以下は通常のスピーカーが再生できる限界付近です。聴こえるというよりも、体で感じるような帯域です。サブ・ウーファーがあるようなクラブやライブハウスで鳴らす場合、この帯域がある/なしで迫力が変わってきます。

一般的に低域感を感じるのは、150Hz付近。ベースやキックの低域成分が含まれている帯域です。ベースとキックの住み分けは、曲の中でベースとキックのどちらをボトムにしたいかを考えながら、EQポイントをずらしていきましょう。

250〜500Hz付近は、音の芯や存在感になる帯域です。この帯域をカットすることで一気にスッキリとしたサウンドになりますが、存在感とのトレードオフなので、一番気を使う帯域になるでしょう。主役にしたい楽器を主軸に考え、その音の邪魔になっているパートをカットしていきましょう。

1〜2kHz付近は、もっとも耳につきやすい…つまり音ヌケに影響する帯域です。ここをブーストすれば、比較的簡単に音を前に出すことができますが、出し過ぎには注意です。4〜5kHz付近も、同じく耳につきやすい帯域。この帯域にはシンバル類やギターのカリッとした要素が入ってきます。ボーカルと干渉しやすい帯域なので、Qを狭めて邪魔になる要素をカットしてみてください。

10kHz以降は、音というよりも空気感に影響する帯域です。キラっとしたリバーブが欲しい場合にも、このあたりをいじってみてください。

スッキリとしたミックスのコツ

スッキリとしたサウンドを作るコツは「聴こえない低域をしっかり処理する」ことっです。低域の主軸となるキック・ドラムは、アナライザーで見ると下図のようになっています。

アナライザーを使えば、音の周波数成分を視覚的に知ることができます。赤丸の付近は、要素としてはたくさん含まれていますが、実際にはほとんど聴こえない帯域です

これを見ると40Hz〜の音が主軸になっているのがわかりますが、画面内の赤丸がついた帯域は、実際にはほとんど音として聴こえない要素です。耳には聴こえなくても要素としてはしっかりと入っているで、このままコンプレッサーを通してしまうと、この帯域がスレッショルドに引っかかり、GRメーターは触れているのにコンプがかかって聴こえない…なんて事態につながります。これはリミッターで音圧を稼ぐときにも同様で、レベル・メーターやRMSメーター上の数値は大きいのに、聴感上は小さく聴こえるのは、聴こえない帯域が邪魔をしている可能性が大きいです。

そういった帯域は、EQでしっかりカットしましょう。下図のようにシェルビングで低域をガッツリとカットしても、低域が弱くなったようには感じないはずです。1パートでは小さい変化かも知れませんが、トラック数が積み上がっていくと決して無視できない量になります。音を聴きながら「これ以上カットすると淋しい感じになるな」というポイントを見つけてカットするだけで、ミックスのスッキリ感は一気に向上するのでEQの基本テクニックとして、ぜひ試してみてください。

聴こえない低域はシェルビングかローカット・フィルターでカットすると、ミックス全体をスッキリ聴かせ、かつ音圧を稼ぎやすくなります。各パートごとにしっかりと処理するだけで、ミックスの完成度は一気に高まります

また、画面のようにQを上げ目に使うことで、カット周波数より少し上の帯域をブーストする「くぼみ」を作ることができます。このようにすると、不要な低域をカットしつつも、しっかりと主張する音を作ることができます。これは低域処理だけでなく、さまざまな場所で応用が可能です。

EQと位相

「EQを使うと位相がズレる」なんて話を聞いたことはありませんか。

位相というのは、マイクやマイキングでよく登場する用語で、簡単に言うと「音の遅れによって波形が変化してしまう現象」のこと。EQはフィルターを使用しているため、どうしても位相ズレが起こってしまうのです。遅れといっても音の時間軸がズレるわけではありませんが、意図しない音色変化の原因になります。

EQで音を大きく作り替えようとすると、位相が変化してしまいます

位相ズレによる音色変化は、必ずしも悪いというものではありませんが、バスやマスター・トラックのように複数の楽器が鳴っている場合は、少しのズレでも大きなサウンド変化につながり、せっかく作り上げたバランスがくずれてしまいます。

これを防ぐため、違うタイプのフィルターを使い、位相ズレがほとんど起きないように工夫されているのが「リニアフェイズEQ」です。一見すると良いことずくめに思えるリニアフェイズEQですが、位相のズレない代償として「プリリンギング」が発生してしまいます。プリリンギングというのは、画面13のように波形の頭が引きのばされたようになってしまう現象のことです。アタック感がぼやけてしまうので、音を聴き比べてみると明確に違いがわかると思います。また、どうしてもレイテンシーが発生してしまうほか、通常のEQに比べるとCPU負荷も高くなってしまいます。「位相がズレる」と聞くと、何となく良くないイメージを抱きがちですが、メリットとデメリットを把握した上で使い分ける必要があるでしょう。

リニアフェイズEQは位相変化が起きない代わりに、プリリンギングという現象が発生し、音全体に影響を与えてしまうことがあります

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基本がわかったら、あとは実戦あるのみ! 「その音をどうしたいのか」を考えながら、いろいろな設定を試してみてください。