ミュージシャンやクリエイターがDAWソフトを使う目的は、何と言っても曲を作ること。その本質を追求し、創作意欲の邪魔をしないことに重点を置いて作り上げられたのがTracktionのWaveformです。昨年登場して話題を集めたDAWが、新たな機能を追加してバージョンアップ。新機能を中心に、Waveform 9の魅力に迫ってみましょう。
曲作りに集中できるDAW
冒頭でも触れた通り、DAWソフトを使う一番の目的は「曲を作り上げる」ことです。しかし、昨今のDAWソフトは非常に多機能。曲作りを始める前に、複雑な機能やメニュー、使い方といった“そのソフトのお作法”を覚えなくてはいけません。決してこれが悪いと言っているのではなく、様々なユーザーのニーズに応えようと進化を続けた結果、複雑化してしまったということなのでしょう。
そんな中で、目的を「音楽制作」とハッキリさせることで、極限までシンプルさと自由度を追求したのがTracktionの「Waveform」です。ミキシングやマスタリングといった一連の制作に対応する機能はもちろん網羅されているのですが、あくまで中心になるのは曲作り。つまり、作曲/アレンジやレコーディング機能です。これ以外の部分はあえて機能を絞ることで、それまでのDAWソフトの複雑さや制約を排除しています。
例えば、象徴的なのがトラックの概念です。通常のDAWソフトであれば、MIDI(音源)なのかオーディオなのか。オーディオならモノ/ステレオなのか…と用途に応じて適切なトラックを作成する必要がありますが、WaveformのトラックにオーディオやMIDIという概念がありません。MIDIクリップを置けばMIDIトラックに、オーディオ・ファイルを置けばオーディオ・トラックになるのです。
また、編集メニューやウィンドウ構成も必要最小限で編集ツールもないので、MTRや音楽アプリのような操作感が特長です。Waveformの概要については、以前3回にわたって紹介しているので、そちらをご覧ください(記事はこちらから)。
コード・トラック機能
ここからは、Waveform 9の新機能を見ていきましょう。まずは、Waveformの最大の魅力である作曲支援機能をさらに強化してくれる「コード・トラック機能」です。コード・トラックを使うことで、曲のコード進行をメイン画面上で瞬時に確認できるようになります。これだけでは他のDAWソフトと変わらないように見えますが、Waveformの「MIDIパターン・ジェネレーター機能」と組み合わせることで、強力な作曲ツールに変貌します。
MIDIパターン・ジェネレーターは、プリセットされたコード進行を選ぶだけで、瞬時にバッキングを作ることができるという機能です。もちろん自分でディグリー・ネームを指定できます。また、1コードを指定すれば、次にマッチするコードを提案してくれるので、コード理論を詳しく知らなくても、音楽的に無理のないフレーズや進行を作ることができます。現代の楽曲は、コードを元に曲を作っていくことが多いと思うので、この機能を使うと曲を量産することも簡単です。
MIDIパターン・ジェネレーターとコード・トラックは同期しているので、コード・トラック上でコードを変更すれば、全トラックのコード進行を一発で変更することができるのです。これを使うと特に便利なのがアレンジ作業です。メロディーに対して、ザックリとコード・トラックでコードを入力しておけば、後から異なるコード展開/進行を試したい時にも、わざわざ各パートのMIDIデータを編集する必要がありません。これまでのように、思うような結果が得られなかった場合を考慮して元データをコピーして…といった作業がないので、新しいアイデアをどんどん試すことができるのは非常に便利です。
一体型のMulti Sampler
新しく追加された「Multi Samplerインストゥルメント」も強力です。その名の通りのサンプラー機能で、オーディオ・ファイルをドラッグ&ドロップで取り込み、ADSRやリバース、ループで加工し、MIDIノートにアサインして鳴らす。といったお馴染みの使い方がシンプルに行えます。また、Multi Samplerが面白いのは、入力ソースとして「サンプラ−・アウト」、「システム入力」、「システム出力」の3つが使用できる点です。特に面白いのがシステム出力で、iTunesやブラウザで鳴らした音をそのままサンプリングすることが可能になったことです。これまでルーティングを工夫したりループバック機能を使っていた作業が、いとも簡単に行えます。
なお、ビート系をサンプルする場合に必須のスライス機能も搭載しています。スレッショルドを設定するだけで1クリックでビートを切り刻み、各スライスごとに細かな編集を行うことが可能です。Multi Samplerはマルチ・レイヤー構造を持ったサンプラーなので、このようにして切り刻んだデータを好きなMIDIノート/ベロシティー上にアサインすれば、オリジナル音源の完成です。基本的に使いたいスライスをドラッグ&ドロップするだけで、オリジナルの音源を作ることができるので、ぜひ挑戦してみてください。
プラグインを自在に操る
Waveform 9では、プラグイン周りも強化されました。中でもぜひ試していただきたいのが「プラグイン・フェイスプレート機能」です。これは、プラグイン・インストゥルメントやエフェクトのユーザー・インターフェイスを自分で作ることができるという機能で、プラグインの中からよく使うパラメーターだけを抜き出し、スライダーやボタンにアサイン。自分の好きな位置に配置できるというものです。背景には自分の好きな写真を割り当てたり、パラメーター名を自分で指定することもできます。
オリジナルのデザインを作ることは手間がかかりますが、よく使うパラメーターだけを自分が使いやすいようにレイアウトすれば普段の作業効率UPは確実。何より、自分で作ったというだけで愛着が湧くでしょう。
また、マクロ・パラメーターも便利です。これはプラグイン上の複数のパラメーターを同期させ、1つのつまみでコントロールするという機能。シンセのフィルターとレゾナンスを同期させたり、コンプのスレッショルドとメイクアップを同期させる…という使い方は、イメージが沸きやすいでしょう。各パラメーターはオフセットや値も設定できるので、スレッショルドを下げるとメイクアップ・ゲインが上がる…というようにパラメーターを反転させるのも自由自在です。そして面白いのが、設定したマクロは先述のプラグイン・フェイスプレート上にアサインできるということ。使い方によっては、まったく別のプラグインのように動作させることもできます。
そして、複数のエフェクト・チェインを1つのエフェクターとして扱える、ラック機能も進化。ラックは左右で違うエフェクトをルーティングしたり、複雑でマニアックな音作りができる機能ですが、新たにエフェクトの使用状況やフェイス・プレートを表示できるスタック・ビューや、モジュールの自動接続機能を追加。ラックを使うことで、複数エフェクトを組み合わせたマクロを組むこともできるようになります。
これらは中・上級者向けの少しマニアックな機能ではありますが、使いこなせばかなり便利なので、ぜひ挑戦してみてください。
その他の新機能
この他にも、好きなパラメーターをLFOやステップ・シーケンサーに割り当てられるモディファイアや、マルチトラックのデータを1本のステレオ・トラックとして管理できるトラック・ループなど便利な機能が満載です。独自進化を続けるWaveform。ぜひお試しください。
■販売価格
Waveform 9 Basic:1万2,380円(税込)
Waveform 9 +Plus Pack Waveform + 16plug-in:1万8,080円(税込)
Waveform 9 Ultimate Pack Waveform + Biotek + 16plug-in:2万9,480円(税込)
■お問い合わせ先
メディア・インテグレーション MI事業部
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