リアルなドラムの打ち込みテクニック – その1

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DAWソフトで曲作りを始めたばかりの頃は、とにかく打ち込んだり演奏を録音していくこと自体に楽しさを感じるはずです。しかし、慣れてくるともっとカッコ良くしたい! リアルに打ち込みたい! なんて完成度を高めたくなるのは自然な流れ。そんな時に注目したいのが、ドラム・トラック。

単にリズムを刻むだけでなく曲のジャンルや時代感、ノリに至るまでドラムが担う要素は非常に大きいパートです。ドラム・トラックを磨き上げることで、楽曲のクオリティーの底上げが行えるのです。そこで今月は、カッコ良くてリアルなドラム・トラックを作る、ちょっとしたテクニックを5回に渡って紹介していきます。(文:鈴木悠平)

ドラムの打ち込みに必要な3つの要素

DAWソフトの大きな魅力が「実際には演奏できない楽器」も簡単に再現できることです。これはテクニック的に演奏できないというだけではなく、音量やスペースの関係も含めて自宅では演奏できない、という要素も含んでの話。そんなパートの筆頭がドラムではないでしょうか。1人で全パートの演奏や打ち込みを行うソロ・ミュージシャンやクリエイターはもちろん、バンドを組んでいても自宅でデモテープを作っているギタリストやベーシスト。場合によってはドラマーだってパソコンでドラムを打ち込む時代。楽器のできる/できない、作っている楽曲ジャンルに関わらず、ドラムは最も打ち込まれている楽器の1つと言っても過言ではないでしょう。

今回のテーマは「どうしたらリアルなドラム・パートが打ち込めるのか」ですが、ドラムに限らずリアルな打ち込みに一番大切なのは、その楽器のことを知るということ。リアルな打ち込みとは、言い換えれば楽器の演奏を真似ることなので、その楽器がどんな仕組みでどんな風に演奏されているのか…といった特性を知らなければ上手に真似ることはできません。最近ではドラム音源を使えば、ドラムの知識がなくても「そこそこリアル」なリズム・パターンを作ることは可能です。しかし、フレーズをカスタマイズしたり、音源のポテンシャルを引き出すには、やはりドラムについてある程度の知識を持っておいた方が有利です。「音量」、「タイミング」、「音色」の3つの要素に分けて考えて行きましょう。

音量を調整する

まずは「音量」の要素から。DAWソフトでは、音の強さを「ベロシティ」というパラメーターで、0〜127の128段階で表していますが、リアルな打ち込みを行う上でもっとも効果的なのは、このベロシティ−に差を付けて強弱をシミュレートしてあげることです。

例えば、マウスを使って何も考えずにドラム・パターンを打ち込むと、常に音量が一定の演奏ができ上がります。この状態が、いわゆる「ベタ打ち」と呼ばれる何の工夫も施されていない状態です。このデータを聴いた多くの方がイマイチだな〜という感想を抱くことでしょう。その理由は、どんなにうまいドラマーでも常に一定の強さで演奏することは不可能ですので、「生(人間)ではあり得ない演奏=打ち込み感の強い演奏」になってしまっているからです。この嘘くささを緩和するために、ベロシティ−を調整していくのですが、ただ適当に強弱を付けるだけでは、リアルというよりも下手なドラマーが叩いたような演奏になってしまうので注意が必要です(笑)。そうならないポイントを見ていきましょう。

拍の頭は強くなる

多くの場合、ドラマーは裏拍よりも表拍の方が強く演奏する傾向にあります。表拍というのは、リズムを数える際に、ワン、ツー、スリー、フォーとカウントする部分です。クリックが鳴るタイミングであり、リズムを強く感じる部分です。そして、表拍に挟まれたタイミングが裏拍です。わかりやすいように8ビートで刻んだハイハットで考えてみましょう。1、3、5、7個目に当たる音が表拍。2、4、6、8個目の音が裏拍です。

▲ベタで打ち込んだ8ビート

メトロノームを聴きながら、机を指で叩くなどして、8分音符のタイミングを取ってみてください。多くの方が無意識のうちに裏拍よりも表拍を強く刻んでいるのではないでしょうか。これをそのままハイハットのベロシティ−の強さに置き換えればOKです。つまり、「強・弱・強・弱・強・弱・強・弱」という具合にベロシティ−を調整していきます。これだけでもリズムにメリハリが付いて、ベタ打ちの無機質な印象が薄らいでいるはずです。さらに発展させて、「強・弱・中・弱・強・弱・中・弱」と表拍にも差を付けてみるのも効果的です。

▲拍のベロシティーを下げるだけで、一気に人間味のあるパターンに!

16ビートになった場合も考え方は同じです。裏拍にアクセントを付けたい曲の場合は、逆に弱・強…の順に調整していきます。いずれも、強弱を意識しながらメトロノームに合わせて机を叩いてみると、どのタイミングの音が強くなるのかがイメージしやすいと思います。

どのくらいの数値で打ち込むの?

強弱を付ける際、ベロシティ−値にどのくらいの差を付けるべきかは、実際に音を聴きながら判断することになります。先述のようにドラマーがまったく同じ強さで叩くことは現実的ではないので、表拍は100で裏拍は50といった数値を決めてしまうよりは、適当にバラつかせた方が効果的です。場合にもよりますが、ベロシティ−を設定する時はドラム単体で聴いた時には少しオーバーかな?と感じる程度の差を付けることで、リズム感が際立って聴こえるので試してみてください。

ただし、ドラム音源を使っている場合には少しだけ注意が必要な場合もあります。最近の音源ではベロシティ−値によって細かく音色が変わっていくので、音色の変化も要素の1つとして考える必要が出てきます。いずれにしても数値で考えるよりも、フレーズとして聴いた時にどう聴こえるか、を意識することが大切です。

スネアやキックの場合は?

ベロシティ−の調節が最も効果的なのはハイハットですが、スネアやキックに関しても表拍のタイミングは強く、裏拍では弱めに設定するのが基本です。ただし、キックでよくある2連打のフレーズなどは裏表関係なく、2つ目の音を少し強めに設定してみるのがオススメです。こうすることで、キック・ドラムのペダルを踏んだ時の「ドドッ」という雰囲気を再現することができます。特にテンポの速い曲では連打ぎみにペダルを踏むことになるので、このように調整することで勢いが増して効果的です。

▲連打系のフレーズでは、1発目よりも2発目を強く鳴らしてみるのも効果的

また、スネア・ロールの場合も少し特殊な調整が必要です。曲の盛り上がりを強調したい場合には徐々にベロシティ−を上げていくという定番テクニックが有効ですが、さらに細かく見れば、ロールでは右手と左手が交互に演奏しているのをシミュレートするために、右手と左手で微妙に強弱を付けてみるといった工夫を施せば、さらに生っぽいスネア・ロールを作ることができるはずです。

▲ベロシティ−やタイミングをランダムに上下させるヒューマナイズ機能はドラムの打ち込みに便利

リアルなドラム・トラックを打ち込みたい時には、まずはベロシティ−を調節してみてください。これだけでグッと完成度が高まります。

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