音楽をやっていると「実はよくわかっていないんだけど、何となくできちゃってるんだよね…」なんてことが意外と多いと思います。しかし、ちゃんと知っていればこれまで以上に作品のクオリティーが上がるはず…。

音楽を作る上で最低限知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説していく「絶対わかるシリーズ」、今回のテーマは楽曲の主役であるボーカルについてです。最も聴かれるパートですので、ボーカル・パートのクオリティーがそのまま曲の印象につながるといっても過言ではありません。ボーカル・レコーディングの流れやマイク選び、クオリティー・アップのヒントを紹介していきます。

本記事は「下準備編」と「マイク選び編」、「レコーディングと編集編(本記事)」と「オススメ周辺機器編」の4部構成になっています。今回は、11本の定番マイクのサウンドを紹介/聴き比べてみます。

録音中に何を聴く?

録音中はボーカリストだけでなく、録音を担当する人も音を聴くようにしましょう。オーディオ・インターフェイスのヘッドフォン端子が1つしかないような場合は、別途ミキサーを用意して簡易キュー・ボックスのように使うか、ヘッドフォン端子を分配するなど工夫します。

録音中はパフォーマンスの良し悪しはもちろん、吹かれや各種ノイズにも細心の注意を払いましょう。マイクを通すと、普段は気にならないようなちょっとした息漏れや、ペチャッというノイズも非常に気になります。こういったノイズは後で処理しようと思うとかなり大変なので、その場でチェックして録り直しておいてください。

ボーカリストによってはポップガードを使っても吹かれてしまう場合があります。その場合はボーカリストの上方から顎のあたりを狙うような位置にマイクを立ててみてください。また、ボーカリストが少し上を向くような位置にマイクを立てると、自然に喉が開いて発声が良くなるケースもあります。いずれの場合も、あまり口から離しすぎると低域が淋しくなっていくので、サウンド変化を聴きながら微調整してください。

良いテイクは良いモニターから

ボーカリストの楽器は「声」。精神/肉体的なコンディションが直接パフォーマンスに表れてきます。良い演奏をしてもらうために、ボーカリストが気持ち良く歌える環境を作ることが何より大切です。どんなに良い機材を使って、マイキングにこだわっても、ボーカリストの気分が乗らなければ良い結果は期待できません。マイクを立てたりDAWソフトを操作することもエンジニアの大切な仕事ではありますが、最も重要なのは「ボーカリストが気持ち良く歌える環境を作ること」といっても言い過ぎではないでしょう。

その一つがモニター作り。自分の声とオケがどのようなバランスで、どのように聴こえるのかによって、ビックリするほど歌声が変わってきます。歌いやすい音量バランスは人それぞれなので、コミュニケーションを取りながら調整していきます。また、ボーカリスト本人に調整してもらうのも手です。とは言っても複雑なDAWソフトの操作をいきなりやらせるのは酷ですので、自分の声を基準にオケの音量だけを調整してもらう程度に留めておきましょう。プロジェクト・ファイルをシンプルにしておいた理由は、ここにもあります。

ヘッドフォンをつけて歌うことに慣れていない場合は、片耳だけヘッドフォンを外して生音を聴きながら歌ってもらっても良いでしょう。また、ぜひ活用してもらいたいのがクリックです。クリックを聴きながら歌うことを嫌がるボーカリストも多いのですが、クリックを聴くかどうかでリズムの安定感に大きな差が出てきます。あまり大きな音で出すと、クリックの音が被ってしまうので注意しましょう。

DAWからオケとクリックを別系統で出力し、ミキサー画面で個別に音量調整できるようにしておくと便利です。ここでは、わかりやすいようにApolloのバーチャル・アウトを使っています。また、モニター信号だけにコンプなどをかけるのもアリ。今回使用したUniversal Audio /Apollo Twin MkIIは、高品位なUADプラグインをほぼレイテンシーなく使用可能。決まりはないので、より歌いやすくするにはどうすれば良いのか、ボーカリストとも話し合いながら工夫してみてください

録音時のエフェクター

モニター作りについては、本当に千差万別です。一人ひとり好みが違うので、ボーカリストと同じ音を聴いてしっかりとコミュニケーションを取るようにすれば自然と良いテイクにつながることでしょう。

モニターに関係してくるのが、「録音時にエフェクターを使うかどうか」です。最近の制作ワークフローでは、いつでも前の状態に戻せる利便性が重要視されることから、アウトボードのEQやコンプをかけ録りするケースは稀でしょう。しかし、エフェクトがかかった状態の方が歌いやすいというボーカリストもいるので、その際にはモニターだけにエフェクトをかけるという手法が用いられます。その場合は、そのままDAWのトラック上のエフェクトをインサートすれば良いのですが、プラグインのエフェクトを使う場合はダイレクト・モニターが使えないので、レイテンシーが発生することに注意が必要です。リバーブやディレイは多少レイテンシーが出ていても演奏の支障になることはありませんが、EQやコンプの場合は音の遅れは致命的。遅れが気にならないレベルまでバッファサイズを下げる必要が出てきます。Universal AudioのApolloやDiGiGridのようなシステムを使うと、レイテンシーを気にすることなく、プラグインが使えるので便利です。

部屋の残響を排除する

次に、今ある環境をブラッシュアップするためのアイテムやアイディアを紹介します。

まず最初にオススメなのが、宅録とレコーディング・ブースの決定的な差である部屋の残響コントロールです。マイクに向かって歌っているつもりでも、マイクには天井や壁に反射した音が入り込んでいます。お風呂で歌うと、自然にエコーがかかって気持ち良く歌えますよね。さすがにお風呂ほどではありませんが、何も対策をしていない環境では、無視できないレベルで反射音が入ってしまうのです。

この反射音がマイクに入ってしまうことを防いでくれるのが「リフレクション・フィルター」です。その効果は顕著で、音に芯とキレが出てエフェクトのノリも良くなります。本当にコレだけで劇的にサウンドを向上できる宅録の必須アイテムといっても良いでしょう。その実力は、既に最適化されたレコーディング・ブースで使っても効果があるほど。素材や形状、値段の異なる製品が各社から発売されています。念のために補足しますが、リフレクション・フィルターは不要な残響がマイクに入らないようにするためのものなので、防音効果はありません。

マイク・プリアンプにこだわる

クオリティー向上を狙うのであれば、マイク・プリアンプの導入がオススメです。ここ数年でオーディオ・インターフェイスに内蔵されているマイク・プリアンプの性能が向上し、内蔵プリアンプでも十分クオリティーの高いレコーディングができるようになりました。特に最近では色付けのないクリアでピュアなマイク・プリアンプで録音し、後からプラグイン・エフェクターを使ってキャラ付けする…という制作スタイルが定着したこともあり、オーディオ・インターフェイス内蔵のマイク・プリアンプもそういったピュアな傾向になってきています。

とはいえ、マイク・プリアンプのサウンドはアナログ・パーツで決まる部分も多く、サウンド・クオリティーを追求するならば専用マイク・プリアンプのアドバンテージは計り知れません。専用機は全体的に高価ですが、最近では10万円以下でもプロユース機に匹敵するクオリティーを秘めたモデルが購入できるようになりました。今回の動画でも、Grace designのm101とGolden Age ProjectのPRE-73 MK3というまったく方向性の異なるマイク・プリアンプを比較試聴できるので、違いを体験してください。

テイクをつなぐコツ

昨今のDAWソフトであれば、1トラック内に複数のテイクを録音できるので、レコーディング時には同一トラックにどんどんテイクを録り重ねていくケースが多いと思います。ある意味では録りではとにかくテイクを重ねて、後からコンピング(張り合わせ)編集することを前提にレコーディングするケースが多いと思います。録り方に決まりはありませんが、ある程度時間が限られているレコーディングの場合は、通しで何テイクか録った後でイマイチだった箇所を部分的に録り直していく方法が録り損ねがなくオススメです。

録っている段階である程度OKテイクが見えてくると思うので、歌詞カードにメモしたり、DAWソフト上で波形の色を変えたりしておけば、後のコンピング作業が楽になります。

コンピング作業は、ひたすら聴き比べて良いテイクを選択して張り合わせていくだけ。ある程度のブロック単位で良いテイクがあれば良いですが、場合によっては1ワード単位でコンピングすることもあると思います。テイク単位で聴くことも大切ですが、同時に前後のつながりを意識しながら選ぶことも重要です。ぶつ切りして張り合わせてしまうと、ちぐはぐで一貫性のないボーカル・トラックになってしまう可能性もあるので、慎重に作業する必要があります。

また、テイク選定のときにはブレスも意識してください。時間軸に沿って波形をチョイスしていくと、ブレスと次の発声が違うテイク…という可能性も出てきます。ブレスがあって次の発声ですので、ブレスと発声を1セットで考えた方が自然なテイクが出来上がるでしょう。

ボーカルのテイク選定をしている様子。必要であれば1ワード、1ブレス単位でつなぎ合わせていきます。テイクをつなぐ際には、フレーズが自然につながるかもチェックしてください

ボーカル修正はトライ&エラー

OKテイクが出来上がったら、最後はボーカル編集です。今や程度の差はあれど、プロアマ問わず当たり前にボーカル修正が行われている状況。一定水準のクオリティーを出すためにも必要不可欠な作業であると言えます。逆に言えば、同じテイクでもボーカル修正をするとしないでは、曲の完成度が劇的に変わってきます。

ここではCelemonyの定番ボーカル補正ソフトMelodyne 4を使って紹介しますが、基本的な部分は他の補正ソフトでも同じように考えることができます。

ボーカル補正のコツはやりすぎないこと。補正ソフトはピッチのずれが視覚化できてしまうため、どうしても完璧な音程に修正したくなると思います。しかしこれをやってしまうと、人間では歌えないボーカル・パートが完成。どこか無機質で、元々のボーカリストの持ち味まで殺してしまうので、あくまで耳で聴いて判断することが大切です。画面で見るとズレていても、聴いて気にならなければOK…くらいの感覚で良いと思います。

そしてピッチ以上に重要なのがタイミングや音の長さです。ボーカルの「リズム」に関する修正です。こちらもすべての音をカッチリと合わせると違和感が生じてしまいますが、節々でタイミングがズレていると、余計にピッチが甘く聴こえることがあります。ピッチを細かくいじる前に、タイミング補正を行うと、過度な修正を防ぐことができるはずです。また、ほんの少し余韻を調整するだけでもボーカルのノリがグッと良くなるので、いろいろと試行錯誤してみてください。

また、この段階で聴き取りにくい部分のボリュームを調整しておけば、ミキシング作業時のコンプ処理が楽になります。

Melodyne 4を使ってボーカル修正とコーラス・パートを生成している様子。具体的な使い方は、動画で解説していますのでぜひチェックしてみてください

 ぜひ、ワンランク上のボーカル・レコーディングに挑戦してみてください!