「2分の1の価格で2倍の性能を」behringer社が目指すものとは -後編-

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楽器ユーザーや音楽関係者なら、一度は耳にしたことがあるであろう、音響機器メーカーの「MUSIC TRIBE」。BehringerやTANNOY、MIDAS、tc electronicなど、各界の著名ブランドを傘下に持つ巨大メーカーです。

前回に引き続き、Behringerの「今」をMUSIC TRIBEグループの内田氏に伺いました。


Behringerに関するお話を伺った、MUSIC TRIBEグループの内田氏

編集部:様々なブランドをグループの傘下に招いていますが、その狙いはどこにあるのでしょうか。
内田:現在、MUSIC TRIBEでは13のブランド(MIDAS、KLARK TEKNIK、LAB GRUPPEN、lake、TANNOY、Turbosound、tc electronic、TC HELICON、Behringer、Bugera、AURATONE、coolaudio、EUROCOM)が傘下にあり、それぞれのブランドの持つ技術やイノベーションを融合することで、さらに優れた製品を生み出すことが目的です。

例えば、Behringerのミキサーにtc electronicのエフェクトを取り込むことで、Behringerがオリジナルで開発するよりも何倍もクオリティーの高い製品が出来上がり、それと同時に大量生産をすることで、コストダウンも図れます。

各ブランドがそれぞれ専門性の高い分野なので、買収前と同じく各ブランドの設計チームが開発を行っています。まれに問い合わせをいただくのですが、各ブランドの製品の品質は買収の前後でまったく変わりませんので、どうぞご安心ください。当然、ブランド名も引き継がれています。


編集部:KLARKやMIDASも驚くほどに手頃な価格になっていますが、価格を抑えられている理由はどこにあるのでしょうか。
内田:従来、かかっていた様々なコストを極限まで落とし、効率化した結果です。例えば、製造コストはACアダプターなどの一部を除き、金型(ボディー成形のための型のこと)を含めた、ほとんどのパーツを自社で製造しています。また、目に見えないところでは、送料や税関などのシッピング・コストの見直しも大きいです。これまでは、いろいろな国を経由して輸入することが多く、その都度、送料と税関手数料が必要になり、これが製品価格に上乗せされていたのですが、工場と倉庫で一貫して管理することで、かなりのコストダウンにつながりました。

現在は、工場から直で代理店に買い付けてもらうシステムを採用することで、さらにコストダウンを実現しています。反対に安くなりすぎてしまい、販売店さんからお叱りを受けることもあるほどです(苦笑)。こういったコスト削減の工夫は私たちが考え出したものではありません。中国での大量生産もそうですが、楽器業界では先駆けて我々が始めたというだけで、他業種では当たり前のように行われていることです。

編集部:先日、リリースされた「WING」も大きな注目を集めましたが、どうして今、デジタル・ミキサーだったのでしょうか。
内田:ご存知の通り、Behringerは創業当時からアナログのアウトボードやミキサーを数多く作ってきましたが、デジタルEQやクロスオーバーといった機材の開発にも積極的に取り組んできました。ちなみに、ミキサーでは2000年代の初頭に「DDX3216」というモデルをリリースしています。

2002年に同社初のデジタル・ミキサーとして発売された、DDX3216

内田:ただし、正直なところ、DDX3216は「成功した」とは言えませんでした。デジタル機材とアナログ機材は似て非なるものです。当時のBehringerにはアナログ機材のノウハウはあっても、デジタル機材に関する技術はまだまだで、やりたかったことを実現できませんでした。その反省を踏まえて、再チャレンジしたのが、2011〜12年にリリースした「X32」です。この頃になると、いろいろな蓄積ができていましたし、MIDASやKLARK TEKNIKがMUSIC TRIBEのグループに参加していました。X32は純粋にデジタル・ミキサーとして優れており、コストもお手頃…ということで、多方面で本機を導入していただき、たいへん好評を得ました。近年のBehringerで最も成功した製品の1つです。

2013年からリリースされ、大ヒットしたX32シリーズ。アワードも受賞するなど、Behringerにとって大きな転機になった

内田:その延長として今年、満を持してリリースしたのが「WING」です。WINGはX32の上位モデルではなく、まったく別のラインアップという位置づけの製品で、「Behringerの集大成」とも言うべきコンソールに仕上がっています。デジタル機材の面白い部分として、ソフトウェアのアップデートでどんどん新機能を追加できる点が挙げられますが、WINGも現在進行形で進化を続けています。例えば、近い将来にDAWのコントロール機能が実装される予定です。

今年リリースされて話題となった、WING。技術やノウハウが余すことなく注入された、Behringerの集大成とも言うべきモデル

behringer 最新デジタル・ミキサー WING 発表会レポート


編集部:昨今のBehringerと言うと、アナログ・シンセサイザーの登場で驚かせてくれました。。
内田:はい、私も驚きました(笑)。Bugera(真空管搭載のギター・アンプ)がリリースされた当時も驚きましたが、まさかシンセサイザーが来るとは思わなかったです。

編集部:なぜシンセサイザーのカテゴリーに進出しようと考えたのでしょうか。
内田前回の話に戻るのですが、ウリが16歳の時に作った「UB-1」を見てもわかる通り、彼にとって「シンセサイザー」は、とても思い入れのある楽器なんです。UB-1はBehringerを立ち上げてからも何度も修理したり、手を加えながら大切にしていたのですが、工場を移転する際に紛失してしまったんです。それが相当悔しかったようで、ことあるごとにUB-1の話をしていたそうです。それを耳にしたMIDASの開発スタッフが、ある時にサプライズでオリジナルのシンセを作り、プレゼントしたそうです。

ウリは、それをとても喜んだそうで、シンセとしても非常に音が良かったことから「これを僕だけが使うのはもったいない。みんなにも使って欲しい!」ということで、急遽、製品化が決まったそうです。そして、生まれたのが「DeepMind 12」という製品です。クローン製品が注目されがちですが、オリジナルのシンセもすごく音が良いので、ぜひ音を聴いて欲しいと思っています。ちなみに、もしウリがギタリストだったら、シンセは登場せずにBugeraのラインアップがどんどん増えていたでしょう(笑)。

tc electronic、MIDAS、KLARK TEKNIKのアルゴリズムによるFXを搭載した、12ボイスのアナログ・シンセサイザー「DeepMind 12」

 

編集部:少し聞きにくい質問なのですが、Behringerというと「クローン製品」というイメージもあります。このあたりの考え方について、教えていただけますか。
内田:これに関しては、いろいろな考え方があるのは重々承知しています。権利関係に関しては非常に気にしており、特許の切れた製品や技術から製品化している状態です。そもそも、どうしてクローン製品を作るのかというと、いろいろな方にもっと手軽に楽器を楽しんでもらいたいからなんです。ウリが常々「どんなに素晴らしい製品も、価格が理由で手が届かないのはもったいない」といった趣旨の発言をしている通り、例えば、ビンテージのアナログ・シンセサイザーとなるとプレミアがついて、とても高額です。高価であるだけの価値があるのも事実ですが、その価格から限られた人しか使えないのが実情です。

それを「何分の1」…場合によっては「10分の1」程度の価格に抑えられたら、これまでシンセに興味のなかった人も手に取ってくれるかもしれません。特にシンセが好きなウリには、その思いが強いんです。厳しいことを言われることもありますが、それ以上に「よくぞ作ってくれた!」という喜びの声をいただいています。決して「安く、たくさん売って儲けよう!」という考えではありません。

編集部:毎月のように新しいシンセサイザーが発売されていますが、次に登場するのは、どのあたりになるのでしょうか。
内田:それはウリ次第ですね。SNSなどをチェックしていただいているユーザーの方はご存じだと思うのですが、突然、新モデルがリークされることもあり、私たちもそれを見て知り、驚くことも少なくありません。ですので、今後の新製品がどうなるかは本当にわからないのですが、しばらくシンセの波は収まらないと思います。まだまだ往年の名機がたくさん残っているので、Behringerとしてできることは、いろいろあると思います。また、昨年よりKORGのMS-20の開発者としても有名な西島裕昭氏が、Behringerのオリジナルのアナログ・シンセサイザーの開発を目的に設立された「日本イノベーション・センター」の所長として加わってくださっているので、こちらの動向にも期待していただきたいです。

編集部:クローン製品を作るのも大変だと思うのですが、製品開発はどのように行われているのでしょうか。
内田:詳しい部分まではわかりませんが、基本的には実機を研究し、リバース・エンジニアリング的に再現しているのだと思います。ちなみに、シンセサイザーの開発と設計は一部がイタリアで、その他はドイツで行われています。クローン・モデルの場合は「いかに実機のサウンドに近いか?」が重要になりますが、Behringerのシンセで使われているパーツは、すべて自社(Coolaudio)製造で、実機のサウンドに肉薄しています。Coolaudioでは、真空管やBBD素子なども製造しており、実は他の有名シンセ・メーカーにもパーツを提供しているなど、パーツ・メーカーとしても評価の高いブランドなのです。

編集部:シンセだけでも様々なものが発売されていますが、一番人気はどのモデルですか。
内田:新製品の中では、やはりアナログ・リズムマシンの「RD-8」ですね。また「TD-3」も大きな注目をいただいており、現在は入荷待ちの状態です。「MODEL D」や発売されたばかりの「POLY D」もそうですが、やはり実機が人気のあるモデルは特に好評をいただいています。
オリジナルのシンセでは、特にプロ・ミュージシャンに高評価をいただいているのが「NEUTRON」です。皆さん、最初は懐疑的なのですが、実際に使ってみるとすごく良くて、「Behringerのイメージが変わりました」と言っていただけることが多いですね。

編集部:これからも注目しています。ありがとうございました。

誰もが知るシンセの名機からオリジナル・モデルまで。今後もラインアップが強化されるそうです


製品ラインナップや商品についての詳細は、以下ページよりご覧ください。

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