レコード・コーナーを設置するCDショップや中古ショップが増えてきており、再び盛り上がりを見せているアナログ・レコードの世界。CDやダウンロードでのデータ販売が当たり前の今だからこそ、”モノ”にこだわりたい。そんな音楽ファンが増えてきているのでしょう。
しかし、若い世代にとって、「そもそもレコードってどうやって聴くの?」という方も少なくないはずです。今回は手頃な価格ながら本格的な機能を備えたNEUのDD1200mk3を例にレコードの楽しみ方を解説します。
今、注目を集めるレコードの世界
1980年代にCDが発売されて以来、音楽はデータ・メディアが主流に。今ではスマートフォンでダウンロードして、気軽に持ち運ぶ…。そんなことが当たり前に行われています。音を録音/再生するシステムとしては1877年にトーマス・エジソンが「フォノグラフ」を発明したところからスタートするわけですが、近年で改めて注目を集めているのがアナログ・レコードです。面白いのが、若い頃にレコードを集めていたという世代だけでなく、リアルタイムにレコードを知らない若い世代までもハマる人が増えているという点です。
その大きな理由は満足感に浸れるからではないでしょうか。確かに画面をタップするだけで最新の曲が手に入り、どこでも聴けるデジタル・データは便利です。一方で、レコードはレコード店で買って、ターン・テーブルにセットして針を落とさなくてはいけません。もちろん外出先では聴けないほか、早送りや巻き戻し、頭出しも思うようにはいきません。しかし、その不便さがアナログ・レコードの醍醐味なのです。インスタントに音楽が楽しめる今だからこそ、あえてじっくりと腰を据えて音楽に浸る。純粋に音楽を楽しむことができます。
また、音質面においても、音声をデータ化するデジタルソースと違い、そもそもアナログである音声をデジタル変換することなく収録するレコードは、CDやデジタル・データとは違った「空気感」を表現できるメディアとも言われています。
強いトルクで安心して使える
NEU(ヌー)は本格的な仕様と確かな品質を手軽な価格で実現する音響機器メーカー。ポータブルPAやヘッドフォンなどでも高い評価を得ています。ターン・テーブルも「mk3」というモデル名を見てわかる通り、3世代目。純粋にレコードを楽しみたいというリスナーから、その性能がアグレッシブなスクラッチ・プレイやDVS(※アナログ・レコードを使ってパソコン上のDJソフトをコントロールするシステム)にも対応することから、DJからも高い評価を得ています。その人気の秘密はターン・テーブルに必要なスペックを備えつつも非常にリーズナブルな点です。初めてでも購入しやすい価格ながら、プロフェッショナルも満足させる実力派モデルなのです。
ターン・テーブルを比較するポイントはいくつかありますが、まずはレコードを回転させる方式から見ていきましょう。ターン・テーブルはレコードを乗せる「プラッター」をモーターで回しており、この時にモーターに直接プラッターをつなげるモデルを「ダイレクト・ドライブ式」。モーターとプラッターをベルトでつなげるモデルを「ベルト・ドライブ式」と呼びます。DD1200mk3はダイレクト・ドライブ式を採用しており、この方式はモーターのパワーを直接伝達できるのがメリットです。回転力(トルク)が強く、回転も安定し、同時にプラッターを回し始めてから規定の速度まで素早く到達できるというメリットがあります。
レコードは回転数にムラが出てしまうと「音程やテンポの揺れ」につながるので、ダイレクト・ドライブ式は安心して使用できます。特にスクラッチやキューイングなどのDJプレイをする場合はトルクが高くないとレコードを押さえた瞬間にプラッターが止まってしまうので、ダイレクト・ドライブ式のターン・テーブルを選ぶのが大原則になっています。
DD1200mk3を設置しよう
前置きはこのくらいにして、ここからはNEU / DD 1200mk3を使って実際にレコードを聴くための流れを見ていきましょう。まずはDD1200mk3を設置します。ターン・テーブルは設置場所も重要です。レコードを回して、それを針でトレースしますので、設置場所が傾いていると不具合が出てしまいます。なるべく頑丈で、水平が取れた台やスタンドに設置しましょう。
あとは本体背面の出力端子をスピーカーなどに接続していくのですが、ここにDD1200mk3のポイントがあります。詳しい理論は割愛しますが、レコード・プレイヤーをそのままパワード・スピーカーやオーディオ・インターフェイスに接続するとレベルが低く、周波数特性もフラットになりません。そこで、別途「フォノ・イコライザー」という機器を通して本来のサウンドに戻す必要があります。ところが、DD1200mk3はフォノ・イコライザーを内蔵。通常ならフォノ・イコライザーを搭載したDJミキサーなどを通さなくてはいけないところ、直接オーディオ機器に接続できるのです。出力はPHONE OUTとLINE OUTの切り替えができるので、手持ちのオーディオ・インターフェイスやスピーカー、コンポにつなぐだけでOK。これは便利です。
レコードの音を愉しむ
設置が完了したら、レコードを置いて本体の電源を入れましょう。DD1200mk3は回転数を3段階で切り替えられるようになっています。理由はレコードの種類によって適切な回転数が違うからです。適切な回転数はレコードのレーベル部分に書かれていることが多いですが、一般的な30センチのLP盤の場合は33回転。17センチと少し小さなEP盤では45回転。SP盤では78回転といった具合です。異なる回転数で再生してしまうと、音程やテンポが狂ってしまうので、注意が必要です。事前にチェックしましょう。
レコード盤を設置し、「START/STOP」ボタンを押して回転。レコードの溝に針を落とせば、音楽が再生されます。レコードは外周から1曲目が収録されているので、縁側の溝に針が合うようにトーン・アームを移動しましょう。「トーン・アーム・レバー」を操作してレコードにゆっくりと針を下ろせば、再生がスタートします。
「レコードを聴くって難しいんじゃないの?」ということをよく耳にしますが、必要なものがすべて揃ったDD1200mk3なら、誰でも簡単にレコードを楽しむことができるのです。
±20%のピッチ調整が可能
ここで、簡単にレコードで音が鳴る仕組みについて紹介しておきましょう。レコードの盤面には渦巻き状の溝が付けられているのがわかります。実はこの溝自体が波形になっており、針が当たることで音を鳴らす仕組みになっています。レコードの溝はV字型になっており、内側45°の面にLチャンネル、外側45°の面にRチャンネルの情報を記録することで、ステレオ再生が可能になっているのです。
なお、レコードの回転速度によって、音程とテンポが変わってしまうのは先述の通りです。DD1200mk3はスライダーの操作で最大±20%の範囲でピッチを微調整することができます。レコードによっては音源自体のピッチがズレていることがあるので、場合によって手動で調整することができるのです。また、20%の幅があるので、DJミックスのように曲同士のテンポを合わせたい場合にも重宝します。なお、「DIRECTION」ボタンを押せば、逆再生も行えます。
ぜひ、DD1200mk3でレコードの世界を愉しんでみてください。新たな発見があることでしょう。
NEU / DD1200mk3を編集長がテスト!
じっくり向き合えるレコードならではの音楽の聴き方
スマートフォンやMP3プレイヤー、パソコンなどを介して気軽に音楽を聴けるようになったぶん、音楽の存在は以前よりも軽くなってしまったと言えるのではないでしょうか。
一方、DD1200mk3のようなターン・テーブルを使ってレコードを聴く場合、音楽を流しながら別のことをする「ながら聴き」よりもソファーにゆったりと座り、飲み物などを片手に「じっくりと音楽と向き合い、1音1音に集中する」という聴き方の方が相応しいでしょう。優雅な時間を過ごすことができ、その音楽の世界観にどっぷりと浸れると思います。
レコードやCDはリスナーの「所有欲」も満たしてくれます。ジャケットにはアーティストの個性が色濃く出ており、とりわけレコードは大きな紙ジャケットなので、視覚的にも迫力があります。さらに、スマートフォンやMP3プレイヤーと異なり、レコードは好みの曲を選曲する「スキップ再生」ができないため、1つの「作品」としてレコードを初めから終わりまで聴くことになります。ジャケットと同じく、収録されている曲順もアーティストのこだわりを感じることができる要素の1つです。
今回のレビューでは自宅からお気に入りのアルバムを何枚か引っ張り出してきて、久々にレコードの音楽を楽しみました。今後もゆったりとした気持ちで音楽を聴く時間を持ちたいです。