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制作環境でもっとも重視すべきはモニター環境です。これは、何もエンジニアに限ったことではなく、作曲/アレンジやレコーディングを行うすべてのミュージシャンにとって、正しい音を聴くということは何よりも重要なことです。今鳴っている音が信用できなければ音楽を作ることはできません。信頼できるモニター環境を作る。これは重要であると同時に、難しいテーマでもあります。そんな宅録最大の課題を15分程度で解決してくれる話題のプロダクト、Sonarworksの「Reference 3」を試してみました。(文:鈴木悠平)

原因は部屋かもしれません!

音楽を作るとき、すべての基準になるのは耳から聞こえてくる音です。様々なメーターを使えば、音楽の中のいくつかの情報を視覚情報化することができますが、あくまでも音を決める際の参考に過ぎません。メーターで音の良し悪しを判断するということはありません。そうなると、音決めに使えるスピーカーやヘッドフォンといったモニター環境を整えるのは必要不可欠です。自分以外の人に聴かせたい音楽なら、なおさらです。

しかし、ただスピーカーやヘッドホンを買ってくればいいという簡単な話ではありません。特にスピーカーの場合は、設置する位置や部屋の材質や広さ、機材の配置など様々な要因によってサウンドは激変します。人間の聴いている音は、スピーカーから直接耳に届く直接音と、周囲の壁や天井を反射して耳に届く音が合わさって作られた音です。スピーカーの性能を最大限に発揮するためには反射音をうまくコントロールする作業、いわゆるルーム・チューニングが重要になってきます。

逆に言えば、ただスピーカーを設置しただけでは様々な問題が起こっている可能性が大きいということです。例えば、中低域が妙に膨らんで聴こえたり、ボリュームは同じはずなのにセンターがずれている。EQやリバーブの掛かり具合がわかりにくい。これらはDAWを使っている人にとって身近な悩みだと思います。この原因は使っている機材でなければテクニックでもなく、実は部屋を含めたモニター環境が原因になっている可能性が大きいのです。

話題騒然の新鋭ブランド、日本上陸

そう言われても、そのためだけに引っ越ししたり、専門業者に工事を依頼する…というのは現実的ではありません。そこで近年注目されているのが、自分の部屋の特性に応じてモニター・サウンドを補正できるキャリブレーション・システムです。各社から様々な製品が発売されていますが、その中で現在高く評価されているのがSonarworksです。

2012年スタートという、まだ新しいブランドにも関わらず、欧米では注目度No.1。そんなSonarworksが満を持して日本に上陸したのです。その製品が「Reference 3」です。簡単に言えば、自分の部屋に測定用のマイクを立て、ソフトウェアが発するテスト音を収録し、その結果を測定することで部屋に合わせたサウンドにキャリブレート(補正)するというシステムです。同じような製品はこれまでもいくつか販売されており、いずれも注目を集めてきましたが、Reference 3が注目されている点は、既存製品の課題だった部分をクリアしたことにあります。

どこがどう凄いのか、実際のキャリブレーション作業の流れと共に見ていきましょう。

失敗しないキャリブレーション

まずは基本のスピーカー・キャリブレーションから試してみます。製品は測定用ソフトウェア、測定結果をDAW出力に反映させるためのキャリブレーション・プラグイン(AU/AAX/RTAS/VST)と専用の測定用マイクの3つで構成されており、ソフトウェアだけ、またはマイクだけを購入することもできます。オススメは測定用マイクがセットになったパッケージです。

測定はフラットな特性のマイクなら社外品でもOKということなのですが、専用の測定用マイクはその特性によって厳密に管理されており、マイクの番号を入力することでそのマイクの特性に完璧にマッチしたプロファイルを使って測定できます。実際に専用マイクと汎用マイクで同じように測定してみましたが、結果には明確な差がありました。せっかくキャリブレーションを行うのですから、ここは妥協すべきではありません。

▲測定用の専用マイクは、マイクの特性まで厳密に管理。リファレンス・サウンドを追求するなら、専用マイクと組み合わせて使うのがオススメです

少し話題が逸れましたが、測定自体は専用アプリケーションを起動して、画面表示に従って作業していくだけなのでとても簡単な作業です。これは従来のキャリブレーション・システムでも言えることですが、ここには大きな落とし穴があります。

キャリブレーションを行う場合、いくつもの測定ポイントにマイクを設置して、各ポイントごとに特性を計測していくのですが、どこにマイクを設置するかによって測定結果に誤差が生じてしまいます。つまり、精度の高いキャリブレーションを行うためには、ある程度測定のコツを掴むことが必要不可欠です。

▲測定の精度を高めるコツは、スピーカー間やリスニング・ポジションの距離を細かく設定しておくこと

Reference 3は25ヶ所で測定を行う必要があるのですが、驚くことにマイクを設置する場所をソフトが教えてくれるのです。測定中はスピーカーから常に測定音が出力されており、その音をマイクで拾うことでマイクの設置されている場所をリアルタイムにソフトウェア上に反映します。ユーザーは画面上に表示されるマイクのアイコンが指定の測定ポジションに重なるようにマイクを動かすだけで良いのです。マイクが指定ポジションに入ると自動的に測定が行われるので、後はこの作業を繰り返すだけでOKです。

「15分でリファレンス・サウンドを…」というメーカーの唄い文句は、まさにその通り。これまでのように測定位置の距離を計ってマーキングして…という面倒な作業は一切不要。キャリブレーションで最も失敗しがちな測定ポジションを自動化することで、ユーザーの経験に関係なく、常に精度の高い測定が行えます。

▲ソフトウェアがマイクの位置を自動検出。画面を見ながら指定ポイントに重なるようにマイクを移動することで、測定ミスを防ぐことができます

リファレンス・サウンドを体験する

測定が完了したらプロファイルを保存し、補正プラグインをDAWのマスター・トラックにインサート。プロファイルを読み込めば完了です。実際に測定結果を反映させた状態が右上の画面です。グラフとして見るとそこまで変化したように見えないと思うのですが、実際に音を聴き比べてみると差は歴然です。特に気になっていた100-200Hzは左右のスピーカーで出方の違う部分もしっかりと測定され、うまく補正されています。補正された音は低域から高域までバランスが良く、見渡しが良くなるだけでなく定位もカッチリ決まってくれるので作業は楽です。EQやコンプ、リバーブの掛かり具合も明確に向上します。
ここまでの作業で感じたのが、補正されたサウンドが音楽的だということです。これまで各社のスピーカー・キャリブレーションを試したことがありましたが、フィルター感を感じたり、機械的にフラットに近づけているのか、味気ない音になってしまう傾向が強く、正直、今までは敬遠していたのですが、Reference 3の音はフラットというよりもレコーディング・スタジオのコントロール・ルームで聴いているような、ほどよくチューニングされたサウンドになりました。カーブをカスタマイズしたり、ダイレクト音をミックスするといった追い込みも可能です。モニターとしての精度は保ちつつも、程良く音楽的なサウンドは曲作りをする人でも違和感なく使えるでしょう。
そして、特定のスピーカーやヘッドフォンの特性をシミュレートする機能も便利です。例えば、10Mで聴いたらどんな音だろう…なんてシミュレートが簡単に行えるようになっています。シミュレート・プロファイルは同時に4タイプまで読み込みができ、1クリックで切り替えることができるので、作業中の音決めの参考にも役立ちます。

▲16,000ポイントのリニアフェイズ処理によって、理想的なモニター・サウンドへキャリブレート。レイテンシー量もコントロールできるようになっています

▲モデルによるサウンド変化の大きい、ヘッドホンでもリファレンス・サウンドが! 一度使ってしまうと手放せなくなること間違いありません

ヘッドホンもキャリブレート!

また、Reference 3にはヘッドフォンのキャリブレーションも行える「Reference 3 Headphone plug-in」という製品もラインアップされています。単体の他、スピーカー・キャリブレーションとのセットも用意されています。こちらはスピーカーと違い、測定は不要です。プラグインをヘッドフォン・キャリブレーション・モードに切り替えるだけで使用できます。定番ヘッドフォンの特性がアベレージ・モデルという形でプリセットされているので、自分の使っているモデルを選ぶだけでフラットなサウンドにキャリブレートしてくれる…という画期的な製品です。こちらもトーン・カーブのカスタマイズやシミュレート機能が利用可能です。
いろいろなヘッドフォンやイヤフォンで試してみたのですが、モデルによっては劇的な向上が期待できます。具体的に言えば、元々の特性が良くないモデルほど、ONにした時の効果が強くなりました。また、シミュレート機能を使ってシミュレート元のヘッドフォンのサウンドと聴き比べてみても、特徴がうまく表現されていました。サポートするヘッドフォンも随時追加されていくということなので、今後のバージョン・アップにも期待できます。

ヘッドフォンでのモニターやチェックは音楽制作に欠かせない作業ですが、ヘッドフォンはスピーカー以上にモデルごとのサウンド傾向が違うため、リファレンスを取るという意味ではスピーカー以上に厄介な存在です。ヘッドフォンでの作業が多い人は持っておいて損はないと感じました。

システム・オーディオにも対応

キャリブレーション・プラグインの大きな泣き所が、プラグインが使用できるDAWソフトの音しか補正できないという点です。つまり、パソコン上のリファレンス曲と聴き比べるには、わざわざDAWソフトに取りこむ必要がありました。それを解決すべく、キャリブレーション・プロファイルをシステム・オーディオにも適用できるアドオンがsystemwideです。このアドオンを使えば、iTunesなどDAW以外のアプリケーションでもキャリブレーションされたサウンドを再生可能になります。こういった製品を待ち望んでいた方も多いのではないでしょうか。

Reference 3を導入すれば、モニター環境は確実に、そして劇的に向上します。単にルーム・チューニングするよりも安上がりというだけでなく、それ以上に使っているスピーカーやヘッドフォンのモデルに影響されず、どんなシステムでも共通のサウンドで作業できます。スタジオでも自宅でも、友達の家でも同じ音が聴ける…という究極のモニター環境と言えるでしょう。


動作環境

Mac OS X 10.7 – 10.12(Systemwideは10.9以降)
Windows 7 – 10
AU、VST(各32/64bit)、RTAS(Pro Tools 9以降)、AAX Native 64bit
RAM空き容量1GB以上
ファンタム供給が可能なマイクプリアンプ、オーディオインターフェイス(スピーカーキャリブレーション時)
ディスプレイ解像度1024×768以上

その他、プラグイン起動時の基本的な動作環境は、各ホスト・アプリケーションの動作 環境に準じます。製品をご使用いただくにはインターネット接続環境が必要です(イン ストーラのダウンロード、およびオーサライズ時)。 製品の仕様・動作環境、および価格は、予告無く変更となる場合があります。

取扱い

メディア・インテグレーション MI 事業部
http://www.minet.jp/

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