作っている音楽ジャンルやパートに関わらず、音楽制作に必須のキーボード。そんなキーボード製作の最先端、イタリアのFATAR(ファタール)社のファクトリー潜入レポート第5弾をお送りします。今回は、組み上がったパーツを組み立てて製品に仕上げていく「組み上げ」セクションを見ていきましょう。
【これまでのレポート】
第1回:世界の鍵盤業界を支えるFATARとは
第2回:Studiologicの誕生
第3回:FATARの頭脳、技術開発部門に迫る!
第4回:ボディーや鍵盤パーツが出来るまで
本レポートは、毎週月曜の12時に更新いたします。
職人ひとりひとりが、責任を持って製造
Marco:このフロアでは、製品の組み立てと製品チェックを行っています。ここまで見て頂いたエリアで作成したパーツを使い、実際に製品に仕上げていく工程ですね。私達のファクトリーでは、ベルトコンベアなどを使った流れ作業であるライン方式ではなく、「ユニット方式」を採用しています。
ライン方式は1人の作業員が数点だけのパーツ取り付けを行い、それを繰り返して製品を組み上げていきます。この方法では大量生産が可能ですし、作業員に熟練の技術は必要ないというメリットがあります。
それに対して私達が採用しているユニット方式は、2~3人のチームで製品を組み立てていくというものです。職人それぞれが受け持つ範囲は広くなりますが、それだけ高い責任感を持って作業に取り組めるのが良い部分です。作業効率のためにチームを組んでいますが、1人でも製品を組み上げられるだけの高いスキルを、それぞれの職人が習得しています。
Marco:作業机のカゴには必要なパーツが収められており、手元のパソコンには必要なパーツ・リストや組み立て手順が表示される仕組みです。この方式の優れた部分は、多くの製品を必要な数だけ製造できる点にあります。例えば今日はNuma Compact 2を。明日はまた違う製品を作る。なんてことが可能になるのです。ラインを組んでしまうと、こういったフレキシブルな対応が難しくなってしまいます。
現在、StudiologicとRolandのVアコーディオンはこの方式で組み上げられています。
Vアコーディオンの製造拠点!
Marco:以前(第1回)にもお話した通り、イタリアのこのエリアは古くからアコーディオンが盛んで、VアコーディオンもRolandのイタリア工場(ローランド・ヨーロッパ)で作られてきました。ローランド・ヨーロッパの撤退によって主力ラインナップの製造をFATARで行うようになったのです。
製造ラインと共に職人ごとFATARに来て貰っているので、品質はRoland時代と変わっていません。ちょうど今、Vアコーディオンを弾いている彼も、ローランド・ヨーロッパ時代からVアコーディオンの品質チェックのエキスパートとして手腕を発揮していたプロ中のプロです。
彼は演奏技術も凄いのですが(編集部注:ぜひ下の動画でチェックしてみてください!)、製品の最終チェックでは実際に演奏して確認することも重要です。
Marco:ここでは今、Numa Compact 2を作っていますね。ユニット方式で、どんどんと組み上げられていきます。ボディーに必要なパーツや基板、ケーブルを取り付けていく作業ですね。ここで組み上げたものは、24時間通電させた後でチェックを行っていきます。
まさに職人技! キーベッド組み込み
Marco:ここで、キーベッドの組み立て手順を見てみましょう。
まず筐体に基板をセットし、フェルトを張ります。このフェルトの下にはアフター・タッチのセンサーが組み込まれています。このフェルトも専用の機械を使って最適な厚みに加工して使っています。
その後センサーを繋ぎ、動作を確認したら鍵盤パーツを取り付けていくのですが…このマシンを見て下さい。何に見えますか?
Marco:お菓子じゃありませんよ?(笑)。このマシンはすべての鍵盤パーツに均等にグリスを塗るためのものです。グリスを塗ったら、遂に鍵盤の組み込みです。
Marco:マシンで塗りきれない部分に手作業でグリスを追加し、黒鍵→白鍵の順番で組み上げていくのですが、ここで前回見て頂いた鍵盤の配置がポイントになってくるんです。
Marco:ここは熟練の技ですね(笑)。あっという間に鍵盤が取り付けられていきます。
Marco:そして最後にハンマーを取り付けたらキーベッド部分の組み付けはすべて完了です。
この模様も、ぜひ動画でご覧下さい!!
製品が出来上がったところで、ファクトリー・レポートは今回で終了… と思いきや! まだまだ続きます。次回はMarco氏が「FATARファクトリーで最も重要なセクション」と語る、キーベッドの品質チェック工程を紹介します!