FATAR ファクトリー潜入レポート! 第6回:FATARの最深部、熟練技術者による徹底した品質コントロールに迫る!
- 2019/8/5
- インタビュー
- FATAR, Studiologic
これまで5回に渡ってお送りしてきたFATARファクトリーの潜入レポートも、遂に終盤を向かえます。突然ですが、皆さんは(キーベッドを含む)楽器作りで最も重要なセクションはどこだと思いますか?
設計やデザイン、組み立て…どれも非常に重要だと思いますが、CEOのMarco氏が「ファクトリーで最も重要」と言い切るのが、今回の品質チェック・セクション。その言葉を聞いたときは、正直いまいち実感が湧かなかったのですが、実際に行われている作業を見て納得。FATARが世界一のキーベッド・メーカーであり続ける理由を垣間見ることができました。
前置きが長くなりましたが… 早速レポートしていきます!
【これまでのレポート】
第1回:世界の鍵盤業界を支えるFATARとは
第2回:Studiologicの誕生
第3回:FATARの頭脳、技術開発部門に迫る!
第4回:ボディーや鍵盤パーツが出来るまで
第5回:職人技が光る、製品組み上げセクション
本レポートは、毎週月曜の12時に更新いたします。
未だに100%手作業で行われる、最終調整へのこだわり
Marco:最後は本ファクトリーでもっとも重要なセクションである、キーベッドの最終チェックと調整を行うセクションを見ていきましょう。
ここまでの工程では効率を高めるために、積極的に機械が使われてきましたが、キーベッドの最終チェックに関しては、特別なトレーニングを受けた熟練技術者の手により、今でも100%手作業で行われています。このセクションで働く技術者は、あらゆる作業工程を経験し、キーベッドのすべてを知り尽くしているということが最低条件です。
Marco:ファクトリーの職人を束ねているのが彼です。私の父の時代から40年以上に渡って工場を支えてきた技術者で、世界一のキーベッド技術者といっても過言ではないでしょう。私も子供のときから色々な意味でお世話になったのですが(笑)。彼に認められ、直接指導を受けて初めてこのセクションで働くことを許されます。
ここでは鍵盤やパーツに傷がないことはもちろん、鍵盤のタッチや沈み込み具合、振動など演奏感に左右する要素を鍵盤1つ単位で確認していきます。例えばピアノ・タッチのTP/100にはハンマーが仕込まれていますが、ハンマーと鍵盤パーツの接合部分がほんの少し固いだけでも演奏感に違和感が出てしまいます。
もし違和感を感じた場合は、パーツの関節部分を少しねじって広げていきます。またすべての鍵盤が綺麗に揃っているか、水平になっているかどうかも重要な確認項目です。これらの要素は機械や数値ではなく、すべて職人の感覚で調整されていくのです。
モデルによっても異なりますが、TP/100に関しては概ね1時間に6台…つまり1台のチェックに10分程度の時間が掛かります。これだけの時間と手間を掛けているメーカーは、そうそうないと思います。
以前、中国の鍵盤メーカーを視察に行きましたが、最終チェックのラインはベルトコンベアに流れてきたのを、ちゃんと動くか確認するという程度でした。つまり、鍵盤1つ1つの演奏感や各鍵盤がきちんと水平になっているのかまではチェックされていなかったのです。
工業製品として考えればそれでも十分かも知れませんが、私達が作っているのは楽器です。最終調整のセクションは、私達の信じる鍵盤フィールをすべての鍵盤に注ぎ込むというFATARの誇りであり、企業理念そのものでもあるのです。
全数検品へのこだわり
Marco:次のセクションでは、実際にキーベッドで音を出しながら、ダイナミクスなど様々なチェックを行っていきます。
この作業自体は珍しいことではありませんが、私が知る限り、多くのメーカーが「抜き取り検査」を行っています。これは全体のロットから1部を抜き出してチェックを行う方式ですが、FATARでは全数…つまり出荷前のキーベッドはすべて、これらのチェックを行っています。
なお製品には、各作業工程にを担当した技術者の印鑑が押されています。こうすることで、職人全員が責任感とプライドを持って「最高の鍵盤を作り上げる」というミッションに取り組んでいるのです。
鍵盤単位の微妙な誤差まで把握!
Marco:ここは出荷前の最終工程です。彼は何をしているかというと、オクターブごとに同じ強さで鍵盤を押したときに、各鍵盤に対してどの位ベロシティーに差が出るかを検出しています。どんなにパーツや組み込み精度を高め、厳密にチェックしたとしても「誤差」が出てしまいます。数値はユニットによっても異なりますので、そのキーベッド・ユニットが持つ「特性」といっても良いでしょう。
一定以上の誤差(ばらつき)が検出された場合は、OKになるまで何度も調整作業が行われます。基準内のものは、各鍵盤の特性をQRコードに埋め込み、データとして希望するメーカーに提供しています。
Marco:こうすることで、メーカー側はそのキーベッドを組み込んだユニットごとに最適なマッチングになるように音源側のアライメントが行える訳です。この調整自体はソフトウェアで簡単に行えます。Studiologic製品はもちろん、イタリアのキーボード・メーカーDEXIBELL(※編集部注:この秋日本にも上陸します!)では、このような調整を行うことで、その音源のポテンシャルを100%引き出せる楽器が完成するのです。
ファクトリーの見学を終えて
決して少なくない数のキーベッドを、1台1台手作業で調整・検品しているというのは予想外でした。正直、そこまでしなくてもいいんじゃ…とすら思わせる徹底した品質管理が、FATARが「世界一のキーベッド・メーカー」という地位を確固たるものにしている理由なのでしょう。
キーベッドにかける全技術者の情熱を見せつけられ、ツアーが終わるころには、取材陣一向はすべからくFATAR鍵盤のファンになっていたのでした(笑)。皆さんもぜひ、改めてFATAR鍵盤に触れてみてください。特に「キーボードなんてどれも同じでしょ?」なんて思っている方には、FATARキーベッドとそれ以外を弾き比べて頂きたい! キーボードが弾ける/弾けないに関わらず、キーを押し込むだけで違いは分かりますよ!
次回はFATARが「新たな挑戦!」と語るStudiologicのMIDIコントローラー「SL Mixface」を紹介します。